1989年から連載が始まった『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修・堀井雄二氏、原作・三条陸氏、作画・稲田浩司氏)。今年35周年を迎えた本作は、言わずと知れた名作RPGゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズをベースに作られているが、基本的にゲーム作品との直接的な接点はない。だが、本作には『ドラクエ』を彷彿とさせるようなセリフや設定がたびたび登場する。
とくに印象的なのが、ラスボスである大魔王バーンのセリフだ。本作を読むなかで、どこかしこにゲーム『ドラクエ』の要素を感じ、テンションが上がったのは筆者だけではないだろう。そこで『ドラクエ』ファンが思わず唸った「バーンの名セリフ」をピックアップして紹介していきたい。
■同じ呪文でも威力が違う! プレイヤーの心を代弁してくれた「今のはメラゾーマではない」
原作において、主人公のダイたちとバーンが戦うシーンは大きく分けて2回ある。
最初はダイの父・竜騎将バランが仲間に加わっていたときだ。超魔生物へと変貌した魔軍司令ハドラーとの戦いで、ハドラーの体内に埋め込まれていた“黒の核晶”の爆発力を抑え込もうと、バランは自らの命を犠牲にしてダイたちを守り抜いた。
“黒の核晶”の爆発後、地上に生存者がいることに驚いたバーンは、その健闘ぶりを称えるため自ら前線へ赴き、褒美として側近のミストバーン・キルバーンに手出しをさせず自分ひとりで戦ってやろうと言い出した。
「…では……相手をしよう…!」と、静かに佇む姿は貫禄十分。まずバーンは勇猛だったバランの亡骸に向けて“人間らしい最期を与えてやる”と、指先から小さな火の粉を放った。これがチロチロと揺らめく様子を見たポップは咄嗟に「メラゾーマだっ!!!!」と言い、仲間に避難を促す。
次の瞬間、凄まじい火柱が立ち、宙を舞って燃え尽きてしまったバラン。これを見たダイは怒り狂ってバーンに向かっていくのだが、軽く衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
動けないダイに向け、さらに火の粉を放つバーン。ポップがメラゾーマで対抗するも直撃してしまう。
防具が炎に耐性があったおかげで九死に一生を得たポップだが、「大魔王のメラゾーマは おれの何倍もの威力があるってえのかよおっ…!!」と嘆く。するとバーンは「…今のはメラゾーマではない…」「メラだ……」と、静かに語るのだ。
バーン曰く、同じ呪文でも使用者の魔法力によってその威力は大きく異なるという。ゲーム『ドラクエ』では、レベルが上がった賢者が放つメラと、レベル1〜2程度の魔法使いが覚えたてで放つメラが同じダメージなのは少々納得いかないものだった。
同じ攻撃力の武器でも“ちから”が高い人が装備すれば、与えるダメージは大きくなる。これは呪文でも同じだ。プレイヤーが感じていたこのことを代弁してくれたのが、まさしくバーンであった。
ちなみにバーンのメラゾーマは優雅な鳥の形をしており、その絶大なる威力から魔界では「カイザーフェニックス」と呼ばれている。小さな火の粉のメラですらあんな破壊力を持っていたのに、とてつもない魔法力だ。さすがは大魔王である。
■誰もが絶望に陥った…知らないと後悔する「大魔王からは逃げられない」
その後、カイザーフェニックスを連発するバーン。ヒュンケルやクロコダインの肉弾戦も通じず、ポップの切り札でもあるメドローアでさえマホカンタで跳ね返される始末。肝心のダイも動けず、圧倒的な戦力差に絶望的な状況だ。しかも、まだバーン側近のミストバーンやキルバーンが動いていない状態だし、もはや勝ち目などまったくない。
ここでポップがみんなを集め、ルーラで逃げようとする。本来ならばバランも戦力として当てにしていただろうから、ダイとバランのツートップが戦えない状況下のなか、妥当な選択だろう。
作戦通りみんなを集め、そして「あばよッ!!!」とルーラで空へ向かって飛ぶポップだったが、なんとそこには結界が張ってあり地面に落ちてしまった。
そこで「……知らなかったのか…? 大魔王からは逃げられない…!!!」と、冷徹に見下すバーン。
これには「いえいえ、知っています!」と『ドラクエ』プレイヤーなら頭を下げてしまうところだろう。そう、『ドラクエ』では絶望的なボス戦の際、逃げようとしても回り込まれてしまう。一度戦力を整えてからリベンジしたくてもできないのだ。
思えば筆者も何度も逃げようとした経験がある。説明書にも書いてないから分かるはずもない。そんな我々プレイヤーと同じように、逃げたくても逃げられない局面に立たされ再度絶望したポップの気持ちが痛いほどわかったものだ。