「まさに“奇跡の人物”かも…!?」『銀河英雄伝説』奔放な猛将「ビッテンフェルト」が誰からも愛される理由の画像
画像は『銀河英雄伝説 COMPLETE GUIDE』(徳間書店)書影より

 田中芳樹氏による人気SF小説『銀河英雄伝説』。同作は1988年から劇場用長編やOVAとしてアニメシリーズが展開され、2018年からは『銀河英雄伝説 Die Neue These』のタイトルで再びアニメ化されている。

 その作中、銀河帝国軍の艦隊司令官として登場する「フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト」という提督がいる。感情のままに好き放題なことをしゃべる猪突猛進キャラの割に、ビッテンフェルトのことを悪く言う『銀英伝』ファンは少ないのではないだろうか。

 また、愛されるのはファンからだけではない。悪口を叩かれることはあるものの、作中の人物からもかなり評価されていることが節々から分かるのだ。

 彼がそれほど愛される理由はどこにあるのか、今回は『銀英伝』屈指の愛されキャラであるビッテンフェルトを深掘りしていきたい。

■作者も殺しきれなかった優遇ぶり?

 ビッテンフェルトは、ラインハルトが元帥に昇進し、銀河帝国に元帥府を開いた際、ラインハルト麾下の艦隊司令官として集められた初期メンバーである。

 ラインハルトのナンバー2の位置づけだったキルヒアイス以外の初期の艦隊司令官は、“双璧”と称されラインハルトからの評価の高いミッターマイヤーとロイエンタールを筆頭に、メックリンガー、ワーレン、ルッツ、ケンプ、そしてビッテンフェルトである。

 初期メンバーはどんな作品でも優遇されることが多いが、この7人のうち、物語の最後まで生き残ったのはミッターマイヤー、メックリンガー、ワーレン、ビッテンフェルトの4人だ。

 参謀長となり、途中からほぼ艦隊司令官の役割を担うことがなくなったメックリンガーや宇宙艦隊司令長官にまで昇進したミッターマイヤーが生き残ったのはさておき、常に最前線で敵を倒し続けてきたビッテンフェルトが最後まで生き残ったのだから、彼の優秀さは言うまでもないだろう。

 ただ、作者の田中氏のあとがきによれば、自由惑星同盟のパイロット「オリビエ・ポプラン」と並び、彼もまた「死ぬ予定だったのに作者の魔の手を逃れて最後まで生き残った」人物らしい。

 そんなビッテンフェルトであるが、なにかと優遇されているのは彼の艦隊を見ればよく分かる。黒一色に塗装された「黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)」と呼ばれる艦隊は、ビッテンフェルト艦隊のみに許された特権とも言えるだろう。

 それに特別な呼称があるのも彼の艦隊ぐらいだ。他の提督は「ミッターマイヤー艦隊」や「ロイエンタール艦隊」としか呼ばれないのに。

 作者にまで優遇されているのだから、その愛されぶりが分かるというものだ。

■負けも多いが強さは本物

 自由惑星同盟・ヤン艦隊のアッテンボローからは、「失敗続きにもかかわらずその都度階級が上昇する奇跡の人物」などと小バカにされていたビッテンフェルト。

 確かにビッテンフェルト艦隊は圧倒的に攻勢に強い艦隊である一方で、ポカをやらかした印象がつきまとうのは、二度の大きな失敗があるからだろう。

 ひとつは「アムリッツァ星域会戦」において、功を焦ったことでヤン艦隊に狙い撃ちされ、艦隊は壊滅状態に。このやらかしにより同盟軍を完全に包囲することができず、敵を完全壊滅させることに失敗するという大失態を犯した。

 二度目の失敗は、イゼルローン要塞を巡る「回廊の戦い」で、罠があると予測しながらもヤン艦隊の策に乗ってイゼルローン回廊内に侵入した結果、半数近い艦艇を失うという大敗を喫したばかりか、同僚のファーレンハイト提督まで失ってしまったこと。

 アムリッツァ星域会戦の失態はラインハルトを激怒させたが、キルヒアイスがとりなしたおかげで不問にされた。それ以降、なぜかビッテンフェルトのミスは軽い叱責程度で済まされるのである。

 それどころかラインハルトから「卿らしい失敗だが、卿らしくない失敗をするよりはよほどよい」と言われるほどで、ある意味特別扱いされていた稀有な存在なのだ。

 とはいえ、実際ビッテンフェルトは同盟軍の名だたる名将を倒した実績もあり、アムリッツァではウランフ、アップルトンというビッグネームを戦死させている。

 また帝国軍を相手に善戦していた同盟軍屈指の名将アレクサンドル・ビュコックと対戦した際にも、ビッテンフェルトの猛攻撃で一気に同盟艦隊を壊滅寸前にまで追い込み、勝利を決定づけたこともある。

 さらにはヤン・ウェンリーが重用していたエドウィン・フィッシャーや、優れた用兵家としてラインハルトも一目置く老将ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督まで倒している。

 同盟軍の名だたる名将をこれだけ倒しているのはビッテンフェルト以外にはいない。つまり、失敗はするものの、成功したときの功績も大きく、そのあたりもきちんと評価されているのだろう。

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