■不条理だけでなくギャグ漫画としても楽しめる『油断ちゃん』

 『油断ちゃん』は『モーニング』(講談社)にて1996年から1997年まで掲載された作品である。

 本作はコダヌキ幼稚園に通う5歳の女の子スパイ・韮崎油断が、地元の商店街を守るべく大手スーパーを経営する赤サソリの一味と戦う物語だ。

 まず主役の女の子の名前が「油断」というのがなんともシュールだ。また油断ちゃんの敵対する赤サソリの秘密工作部員も「下心金四郎」や「赤蠍リボン子」など、名前だけを見ても吉田氏の世界観満載のストーリーである。

 『油断ちゃん』は『伝染るんです。』や『いじめてくん』よりもストーリー性があり、一般的なギャグ漫画としても楽しめる。たとえば下心金四郎の拳銃攻撃をくらったシーンで倒れた油断ちゃん、息絶え絶えでいったセリフは「プリクラはどこ? 今の私のかわいそうな顔を記念にプリクラで…」と、当時の流行りも取り入れたボケを言う。

 またやっぱり変わっている油断ちゃんのおじいちゃん、孫にあげたプレゼントは「気に入らないやつぶんなぐり券」だ。“悪ガキとか殴りたい奴がいたらおじいちゃんをお呼び”というセリフはシュールすぎるが、思わず笑ってしまう。

 このように『油断ちゃん』は不条理の世界観がありつつ、一般的なギャグ漫画としても十分に楽しめる作品だ。スパイをテーマにした作品であるため、単行本ではアメリカのスパイや日本のスパイという劇画が登場するのにも注目だ。

 

 吉田戦車氏の描く不条理漫画は、日常生活では決して起こり得ない出来事を多く描いている。一見“こんなことあるわけない”と思いながらも、読んでいるうちに不思議な世界観に引き込まれてしまうのだ。その独特の空気感に浸ると、日常の嫌なことを忘れて没頭できるため、ちょっとしたストレス解消にもなる。

 現在、吉田氏は『出かけ親 漫画家 屋外活動覚え帳』というエッセイ漫画を『ビッグコミックオリジナル』(小学館)で連載中である。外出先での自身の体験を描いた本作は不条理漫画とは趣が異なるが、ユーモアと魅力にあふれた作品となっている。

 吉田ワールドが炸裂しているこれらの作品たち。ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがだろうか。

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