■虐げられた皇子は頭に角を抱く美青年「プリンス・ハイネル」
長浜ロマンロボ2作目にあたる『超電磁マシーン ボルテスV』は、キャラクターデザインを『超人ロック』などで知られる漫画家の聖悠紀さんが担当し、全40話が放送された。
地球に酷似したボアザン星(ボアザン帝国)では、角がある者が貴族、ない者は労奴という差別社会であった。ボアザン帝国は領地拡大のために地球侵略を開始するが、剛健一ら5人の若者が乗り込む巨大ロボ「ボルテスV」が立ちはだかるというストーリー。
同作で市川さんが演じた美形悪役は「プリンス・ハイネル」。ボアザン帝国の地球征服軍司令官で、オレンジ色のゆるやかなウェービーヘアに、えりの飾りが独特な緑の袖付きマントを着用、頭には貴族の証である二本の角が生えた“皇族”だ。個人的にはシリーズのなかで、もっとも市川さんの“ハイ・トーン”な声がハマった凛々しい貴公子キャラに思える。
そんなハイネルは、父ラ・ゴールが反逆者となったため、ほかの皇族から虐げられる。彼が危険な前線に立つ理由は、その汚名を晴らすべく皇帝に忠誠を誓ったためである。
思えば、最終回間際になっても“貴族”であり続けようとしたハイネルの頑なな生き様は、幼少期のつらい経験が影響したのかもしれない。一方、現皇帝ズ・ザンジバルは、自分よりも血筋の良い甥のハイネルを疎ましく考え、彼を亡き者にしようと企てていた。
四面楚歌のなか、幼い頃から兄妹のように育ったリ・カザリーンはハイネルを慕い続け、ボアザン貴族の銃弾から彼をかばって息絶えてしまう。
ボアザン帝国の貴族たちは“革命”が起こったことにより、プライドを捨てて無様な姿を見せる。しかし、ハイネルは「宇宙で最も優れた人種、角を頭に戴くボアザン貴族の戦いは最後の一人まで続くのだ!」と最後まで抗い続けた。
そして巨大ロボ「守護神ゴードル」に選ばれたことで、果敢にもボルテスVに挑むも決着はつかず。主人公の剛健一と生身で戦うことになる。しかし、そのときにハイネルが持っていた短剣をきっかけに、剛健一の父親である健太郎が、ハイネルの父ラ・ゴールだということが判明するのだ。
つまりハイネルと健一たちは異母兄弟であり、兄と弟で対立していたというわけである。この悲しい運命は、多くの女性ファンの心をかき乱した。
その後、自国に巣食う悪の首魁の存在にようやく気づいたハイネルは、かつて忠誠を誓った皇帝ザンジバルを斬り捨てる。そして建物の崩落から弟・健一を救うと、儚げなほほ笑みを浮かべながら崩壊する黄金城へと消えていった。
ずっと反逆者だと信じ込んでいた父との邂逅の瞬間の「お父さん……」というつぶやき。寂しさと愛しさがこもった市川さんの演技は、ハイネルの複雑な心境を見事に表現していた。