鳥山明さんによるバトル漫画の金字塔『ドラゴンボール』(集英社)は、バトルだけではなく、登場人物が織り成す人間ドラマも魅力のひとつだ。激しい戦いの中で命を落としてしまう者もいるだけに、それぞれの思いが描かれるたびに胸が熱くなる。
本作を振り返ってみると、キャラが命を落とすきっかけに「自爆」が絡むことがけっこう多い。そして自爆シーンには、命と引き換えにするその特性ゆえか、心揺さぶられるやりとりも付き物なのだ。
そこで今回は、『ドラゴンボール』で自爆が生んだ感動のドラマを紹介していきたい。
■苦渋の決断…セルとともに爆発した悟空
自己犠牲による最高のシーンといえば、セル戦で悟空がとった行動は外せないだろう。
悟空はセルと戦う際、セルを倒すのは悟飯だと思っていた。そして彼の予想通り、悟飯は覚醒によってセルを上回る力を発揮する。あのまま普通に戦っていれば、悟飯の勝利は確定していただろう。
しかし、あまりの実力差から悟飯は慢心し、「あんなやつはもっと苦しめてやらなきゃ…」と決着を長引かせてしまった……。そのせいで追い詰められたセルは自爆を選択し、これが最悪の結末を招くことになる。
どんどん膨らんでいくセルを攻撃するわけにもいかず、周りはただ見ていることしかできない。そんな状況で唯一動けたのが悟空だった。
「バイバイみんな…」と話すと、悟空は瞬間移動によってセルを界王星へと移動させる。そして、地球に被害が及ばない場所で自分もろともセルを爆発させた。
悟空は一度死んでいるので、二度とドラゴンボールで生き返れないのだが、それを承知のうえでこの選択をしている。家族や仲間を守るために下した苦渋の決断だったはずだが、悟空に迷う様子はなかった……。
もしかすると、悟空にとって自らの死はそれほど重要ではなかったのかもしれない。悟飯という新たな希望があるからこそ、後は任せられると思ったのだろう。
■トランクスとのやりとりも泣ける…ベジータの自爆
次はベジータの自爆シーンを紹介したい。作中屈指の実力者でプライドも高いベジータは自爆とは無縁そうなイメージなので、このシーンに衝撃を感じたファンも多いのではないだろうか。
そのきっかけとなったのは魔人ブウとの戦いである。ベジータは悟空との戦力差を埋めるためにあえてバビディに操られ、悪の心を取り戻すという選択をする。そして、多くの人間を殺して悟空と戦うことになり、ブウ復活の手助けをしてしまった……。
復活したブウの戦力は未知数で、明らかに悟空の力を上回っていた。そこでベジータは「オレが出してしまった魔人ブウは オレがかたづける」と語り、ブウに挑んだ。しかし全力で攻撃をしても相手のダメージは皆無……。そんな圧倒的な実力差を前にして、ベジータは覚悟を決める。
ベジータは近くにいた息子・トランクスに「赤ん坊の頃からいちども抱いてやったことがなかったな……」と突然言い出したかと思うと、「抱かせてくれ……」と抱き寄せる。このときの不器用な抱きしめ方もなんとも印象的だった。それから「元気でな………トランクス」と別れの言葉を告げて気絶させると、ピッコロに彼をできるだけ遠くへ連れていくよう頼む。
そして、ベジータはそのまま全生命力を使い、ブウを巻き込んで自爆してしまったのだ。そこまでしてもブウを倒せはしなかったのだが、このシーンでベジータの意外な一面を見られたように思う。
あのベジータが家族を持ったことで愛を知り、自分よりも大切な人たちを守ることを選んだのだ。これまで数々の非道ぶりを見てきたからこそ、ギャップがあってぐっときてしまった。