『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』に『箱舟はいっぱい』も…令和の世界を予見!? 藤子・F・不二雄が「SF短編」で描いた「正義という恐怖」の画像
『藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>』(1)(小学館)

ドラえもん』『パーマン』『キテレツ大百科』などで知られる漫画家の藤子・F・不二雄さんは、子ども向けに夢とロマンがあふれる数多くの児童マンガを発表してきた。その中のいくつかの作品はアニメ化され、今も世界中で愛されている。

 その一方で、一般向け雑誌を中心にいくつもSF短編の執筆をライフワークにしていた。児童マンガとは異なり、いとも簡単に人が死に、なかには世界が滅亡してしまう作品もある。また、ゾッとして後味が悪いものの、どこか現代に通じる内容の作品が多いのも特徴だ。

 今回はそんな藤子・F・不二雄さんのSF短編から、本当に怖いと感じる作品をいくつか紹介したい。

※以下、SF短編のネタバレに触れている部分があります。未読の方、気になる方はご注意ください。

■見た目はユニークなのに実は凶悪な『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』

 最初に紹介するのは、見た目はユニークなのに、実はとてつもなく恐ろしい存在を描いた『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』(『藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>』3巻収録 )だ。

 句楽兼人(顔は藤子不二雄作品でおなじみの「小池さん」と同じ)は、大手企業の「待機室長」という役職に就いている が、なぜか周囲は彼を異様に恐れている。それもそのはず、句楽は「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」を名乗り「正義の味方」として暴虐の限りを尽くしていたのだ。

 もともと正義感の強い男だったが、非力で平凡な彼は本当に悪事に出くわしても見て見ぬふりをするだけで、新聞に投書することをはけ口にしていた。ところがある朝、突然“超人”になった句楽は、暴走族から政財界の黒幕、公害企業などに片っ端から鉄槌を食らわせていく。

 さらに、ささいな罪を犯した者を容赦なく殺し、自分に逆らう者をすべて「悪」とみなして、警察も機動隊も自衛隊も皆殺しにしてしまう。小型核ミサイルを落としてもウルトラ・スーパー・デラックス細胞を持つ句楽は殺せなかった。やがて政府も社会も句楽を恐れ、要求されるがままアイドル歌手を差し出すほどに。しかし最終的には、ウルトラ・スーパー・デラックスガン細胞がまたたく間に増殖して、句楽はあっけない最期を遂げる。

 コミカルなキャラクターが次々と人を殺していく恐ろしさもあるが、なんといっても「正義の味方」が暴走していく様子が恐ろしい。

■夢いっぱいに見えて実は怖い『わが子・スーパーマン』

 ヒーローを題材にした作品は他にもある。児童マンガのスタイルを借りた『わが子・スーパーマン』(『藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>』1巻収録 )だ。

 主人公はヒーロー番組『ウルトラファイター』に夢中の小学生・タダシ。いつもウルトラファイターが悪者・ゾンビーを取り逃がして悔しい思いをしている。一方、彼の住む家の近辺では通り魔が出没し、ケガ人が続出していた。通り魔の正体は、ウルトラファイターの扮装をしたタダシだった。タダシにはいつの間にか超能力者としての能力が備わっていたのだ。

 タダシの父親は犯人がタダシだと気づいて説得するが、「ぼくは正義の味方なんだ。悪者は許せない。」と聞き入れない。子ネコを捨てたおじいさん、駅で行列に割り込んだおばさんは悪いことをしたから叩きのめしたという。ゾンビーの隠れ家を見つけたから殺すと宣言したタダシは、ゾンビー役の俳優の家に押し入って殺害してしまう。現場にいたタダシは“奇跡的に”無傷のままだった。

「まるで不死身のスーパーマンみたいですって。」と医者の言葉を紹介しながら微笑む何も知らない母親と、慄然とする父親の前で、無邪気に遊ぶタダシの姿で終わる。

『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』と『わが子・スーパーマン』は、いずれも「正義の暴走」を描いた作品だ。それぞれ暴走する要因が示されているのがポイントである。前者は「鬱屈を抱えた中年男」、後者は「ヒーローを信じる幼稚な子供」が、大いなる力を得て「正義の味方」の名のもとに暴走する。分別のある中年男性が力を得てヒーローになる藤子・F・不二雄作品『中年スーパーマン左江内氏』と比べてみても、暴走の要因は明らかだろう。

 昨今はSNSで「正義」の名のもとに過剰なバッシングなどで暴走する人々をよく見かけるが、両作品はどこか現代を見通しているようで興味深い。句楽健人が投書をはけ口にしていたのも、まるっきりSNSで暴走する人たちと共通する。

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