2024年7月、原泰久氏による『キングダム』(集英社)の実写映画4作目となる『キングダム 大将軍の帰還』が公開された。興行収入は驚異の70億円超え。漫画原作の実写化として大成功といえるだろう。
快進撃を続ける『キングダム』の魅力は、何といっても主人公である信の成長劇である。仲間も信を大将軍にさせようと奮起しているが、中には道半ばで命を散らしてしまう者も……。だがそうした者たちの想いも、信たちの中にはずっと残り続けている。死んでしまったからといって、そこですべてがなくなるわけではないのだ。
そこで今回は、飛信隊で命を落としてしまった仲間の中から、散り際に印象的な活躍を見せた者を振り返っていきたい。
■信を生かすため自身の命を削った尾到
飛信隊の中でも、特に重要な役割を果たしたのが尾到だろう。趙との戦いで飛信隊が敵将・馮忌を討ち取るなどの功績を上げて盛り上がる中、趙の武将・龐煖の夜襲によって状況が一変した。
たったひとりで敵軍に乗り込む龐煖の力は、一騎当千と呼べるほどの実力で王騎将軍にも引けを取らない。そのため、百人将にすぎない信との実力差は明らかだった。
さらに、龐煖の襲撃をきっかけに万極軍も参戦し、最終的に飛信隊は退却するしかなくなった。その時の信は龐煖との戦いで気絶していたので、尾到が背負って逃げることになる。
その後、追っ手が次々と現れて襲われるも、信を助けたいという一心だけで尾到は必死に体を動かす。結果としてどうにか逃れるのに成功したが、尾到の体は限界を迎えていた。
やがて目覚めた信に向かって尾到は「大勢の仲間の思いを乗せて天下の大将軍にかけ上がるんだ」と話し、力尽きて眠りにつく……。眠る直前、「寝れば治る」と話していた尾到だったが、翌朝になってもその目が開くことはなかった。
信はそんな尾到の亡骸を背負って隊と合流し「すまねェ」と謝る。これには、兄の尾平が泣きながら「立派に役目をやり遂げたんだ」「こういう時は………笑って…ほめてやるんだ」と話す。
尾到のおかげで生き延びたからこそ、信はその後活躍できた。もしあそこで尾到がくじけてしまったら、彼の大将軍への道は閉ざされてしまっただろう。尾到の功績はそれだけ大きいといえる。
■最期まで飛信隊を想い続けた松左
尾到と同じように、飛信隊の初期メンバーである松左も戦場で命を落とすことになる。松左は伍長から始まり、什長、副歩兵長兼百人将と順調に昇格を果たしていた。槍術を得意としており頭が切れるため、周りの人間からの信頼が厚く、飛信隊に欠かせない人物であった。
そんな松左は朱海平原の戦いで、飛信隊に新加入した干斗たちが敵に取り囲まれたのを知ると真っ先に助けに向かう。状況は最悪で、助けに向かうよりも見捨てたほうが賢明と思ってしまうほどのものだった。
しかも軍師の河了貂からは、確実に助からない兵は見捨て、助かりそうな兵を確実に助けるように事前に指示を出されていた。
だが、松左はその指示を無視して干斗たちを救うことを選択する。そして、救出に成功するも致命傷を負ってしまい、仲間に見守られながら信の腕の中で力尽きてしまうのだった。
松左は自らの槍を干斗に託すことで次に繋げようとしていた。まるで王騎が信に矛を受け継がせるシーンのようだ。こうやって人の思いや意志が伝わっていくのだろう……。
これからの活躍が期待されていただけに、松左の突然の死はあまりにも衝撃的で悲しすぎた。命尽きる直前、最後の力を振り絞って信のもとに行く姿にも心打たれてしまった。