石ノ森章太郎さん原作の特撮ドラマ『仮面ライダー』シリーズには、「おやっさん」と呼ばれるキャラが登場する伝統がある。ライダーとして戦う主人公の良き理解者としてサポートするキャラで、その名の通り壮年の男性であることが多い。
初代『仮面ライダー』の立花藤兵衛から始まったおやっさんキャラの系譜は、現在の『仮面ライダー』シリーズにも受け継がれている。
今回は、「平成仮面ライダー」の作品の中から、とくに印象的だった「おやっさん」キャラを振り返ってみたい。
■飄々とした雰囲気で底知れなかった『電王』オーナー
まずは2007~2008年に放送された『仮面ライダー電王』から、時の列車・デンライナーを取り仕切る男、通称「オーナー」だ。
オーナーの特徴は、ずばり“謎”に尽きる。未来、過去、現在をタイムマシンのように行き来するデンライナーで一番偉い人、ということ以外なにも判然としない人物で、最終回から16年が経った今も何者なのかよくわかっていない。
筆者が初めて『電王』を観たときは、オーナーの正体が明かされないまま最終回を迎えてしまったことに、ビックリしたものだ。
そんなキャラだからか、人物像も掴みどころがない。チャーハンに旗を立てて倒れないように食べる趣味を持っているかと思えば、時間やイマジンへの深い知識で主人公の野上良太郎を助けたりする。「時のルール」を壊す輩は絶対に認めない厳しい一面もあり、なんとも不思議な「おやっさん」なのだ。
ちなみにこの役を演じたのは、『世界の車窓から』のナレーションとしても知られる石丸謙二郎さんだ。石丸さんが醸し出す雰囲気が、オーナーをより底知れないキャラに昇華させていたように思えてならない。
■翔太郎が憧れたハードボイルドの象徴『W』鳴海荘吉
2009~2010年にかけて放送された『仮面ライダーW』は今年で放送15周年を迎えた。現在も根強いファンが多く、「平成仮面ライダー」でも指折りの名作に数えられる。
そんな『W』のキャラのなかでも、高い人気を誇る「おやっさん」が、鳴海探偵事務所の初代所長・鳴海荘吉だ。
『W』の主人公・左翔太郎はハードボイルドな探偵を自称する若者だが、その理由は探偵の師匠でもある鳴海に強い憧れを抱いていたからだ。ダンディな出で立ちやどんな仕事もクールにこなす姿勢はまさに男の中の男。翔太郎は鳴海を「おやっさん」と呼んで慕うが、それも納得のカッコ良さだ。
鳴海は本編第1話の冒頭で死亡しており、その詳細は映画『仮面ライダー×仮面ライダーW&ディケイド MOVIE大戦2010』内の『仮面ライダーWビギンズナイト』で描かれている。
前日譚となる『ビギンズナイト』で、鳴海は、仮面ライダースカルに変身してもうひとりの主人公・フィリップを救出するも、脱出中に敵の凶弾に倒れてしまう。そして、翔太郎にお気に入りの帽子を託し「(帽子が)似合う男になれ」と言い残す。このシーンは、ふたりでひとりの「仮面ライダーW」の出発点だ。
演じる吉川晃司さんによってその魅力が最大限に引き出された鳴海は、究極のハードボイルドを体現したキャラだった。
これは余談だが、『W』にはもうひとりの「おやっさん」として刃野幹夫という刑事が登場する。いつも無茶をする翔太郎をいつも気にかけてくれる存在だ。そばにいるという点では、逝ってしまった鳴海よりおやっさんらしい人かもしれない。