■見苦しい男の嫉妬「ヤーヤボールの小さな世界」

 最後に紹介するのは「ヤーヤボールの小さな世界」のエピソードだ。不思議な力に誘導され「ヤーヤボールの小さな世界」という、地球に似た惑星に到着してしまった999号。

 そこで鉄郎はヤーヤボールという男性から無理やり夕食に招待される。そして、大量のご馳走を提供され、“意志の強いしっかりした若者だ”などと彼に賞賛されるのだ。

 一見するとこの星は素晴らしく、ヤーヤボールも良い人物のように思えるが、そうではなかった。

 その後、鉄郎を地下室に閉じ込めてしまうヤーヤボール。その理由は鉄郎が大きな夢を抱き、自分より良い機械の体を手にすることに嫉妬したからだ。「ぼくにできなかったことをする人間がいるのが気にくわない!!」と言って、鉄郎を殺害しようとするヤーヤボール。しかし“戦士の銃”を持つ鉄郎の反撃に遭い、最終的にヤーヤボールは飛び立つ999号を恨めしく見上げるのであった。

 ヤーヤボールの小さな世界についてメーテルは、「心の狭い、スケールの小さな男が造り上げた小さな小さないつわりの世界」と話している。ヤーヤボールは若者がたくましく育つのが妬ましくてしょうがなく、哀れで救いようのない世界を1人で造り上げたのだ。

 ときに私たちも、人と比べて嫉妬してしまうことがあるだろう。しかしヤーヤボールのように、他人の未来も人生も認めないような生き方はしたくないものである。

 

 今回紹介した星たちのエピソードは、いずれも良い展開が待っていそうだったが、最後のオチは違った。自らの醜態に絶望する人や、ワインが飲み放題になってもその先が恐ろしい話、男の嫉妬が造り上げた偽装の世界など、いずれも残念な展開が待っている。

 松本さんの描く世界は決して一筋縄ではいかず、幸せとは何か、今の考えはそれで合っているのかなどを考えさせられる。エピソードの多くはハッピーエンドではなくとも、読むたびに深いメッセージを与えてくれる稀少な作品である。

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