■読み返すのがつらすぎる……芸能界失脚後の劇で棒立ち
今年創刊50周年と長い歴史を持つ『ガラスの仮面』だが、なかでも断トツで心が痛くなるのがマヤの芸能界編だ。スターへの道を歩み出したはずのマヤが芸能界の闇に渦巻く陰謀に呑まれて失脚していく展開は、読んでいて胸が苦しくなる。
とくにつらいのが、母親の死と同時に芸能界を追われたマヤが参加した舞台『黄金の実』での一幕だ。真澄の企みがきっかけで母親を失ったマヤは、それでも女優として再起しようと舞台に上がる。しかし、とある観客のこんな言葉を耳にしてしまう。
「女優になるために病気のお母さんをわざと行方不明にした」と。
心ないヤジにショックを受けたマヤは、演技はおろか舞台の上で立ちすくむ大失態を犯す。その後も役に入りこめず演劇はめちゃくちゃになり、この1回で降板させられてしまうのだった。
生きがいのお芝居すらまともにできないマヤの絶望が露わになったこのシーンは、『ガラスの仮面』においてもっとも悲惨な失敗ではなかろうか。正直、読み返すだけでつらくなってしまった。マヤがどうしてこんな目に遭わなきゃならないのかと……。
マヤは「お芝居だけがあたしの取柄」と断言するほど演技が好きで、それゆえにほかを寄せ付けない強烈な才能を発揮する。そんな彼女が演技に失敗するときは、それほど心身がまいっているときなのだ。
だからこそ北島マヤの数少ない失敗は読者の胸を打ち、トラウマのように心に残るのだろう。