■ナンセンスギャグの連続

 『珍遊記』の魅力は、何といっても終始展開されるナンセンスギャグにあるだろう。

 物語が平然と前回の内容を無視するようなストーリー展開に加えて、下ネタの数々。また、敵の首が飛び散ったり、ばばあが杖で少年たちを容赦なく殴りつけたりするなど、過激な描写も少なくなかった。

 さらに、『ドラゴンクエスト』、『花の慶次』、『聖闘士星矢』といった人気作品のパロディが随所に見られる点もユニークだ。とくに、酒場での戦い「今のはいたかった…いたかったぞーー!!」は、『ドラゴンボール』のフリーザ様そのものでめちゃくちゃ笑った。

 さらに、同じ絵を何度も使い回す“コピーギャグ"も有名だ。読者としては「楽してんじゃねーか!」なんてツッコミを入れたくなるが、考えてみるとこれも『珍遊記』だからこそできる手法だ。ページをめくる際に間違えたかなと錯覚を起こすほど、同じコマが何度も登場していたのが印象深い。

 そして地味にお気に入りだったのが、漢字と独特な読み方をする玄じょうの呪文だ。瞬間移動の「転送(ファックス)」や、妖気を吸収する「特殊妖気吸収石(スペシャルパンパース)」、さらに早く走れる「韋駄天走法(カルルイス)」など、センス溢れるネーミングも素晴らしかった。

■主演・松山ケンイチさんで実写化も!?

 1992年に惜しまれつつも連載が終了した『珍遊記』だが、驚くべきことに2016年に実写映画化されている。

 主人公・山田太郎を演じたのは松山ケンイチさんだ。漫☆画太郎さん原作の実写映画『地獄甲子園』の監督で、本作のメガホンを取った山口雄大監督とかつてから縁があった松山さん。山口監督ともう一度仕事をしたいと思っていたが、それがまさか『珍遊記』になるとは思っていなかったと、当時のインタビューで語っていた。

 さらに、玄じょう役の倉科カナさんも話題になった。坊主姿ながらクッキリとした顔立ちで美しさを保ちつつ、下ネタもこなすコミカルな演技が光る。

 さらに、変身前の山田太郎役にはピエール瀧さん、映画オリジナルの敵役・龍翔役に溝端淳平さんと個性的なキャストが揃った。

 個人的に一番笑ったのは、田山涼成さん演じる“じじい”と、笹野高史さんが演じた“ばばあ”だ。この2人の名優によって繰り広げられた掛け合いはそれだけでも一見の価値があると思っている。

 

 『珍遊記』は「ジャンプ黄金期」において、ほかの名作と一線を画す異彩を放つ作品だった。『西遊記』をベースにしながらも、漫☆画太郎さん独特のナンセンスギャグや過激な描写、そしてほかに類を見ないようなキャラクターたちは、当時の読者を魅了した。

 そして当時小学生だった筆者にとっては恐ろしくも面白い、ほかの作品では感じることができない衝撃的な作品として、いまも心に深く刻まれている。

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