漫画『珍遊記 ー太郎とゆかいな仲間たちー』をご存じだろうか。1990年、ジャンプ黄金期に突如登場した漫☆画太郎さんの『珍遊記』は、数々の名作が並ぶなかでも、その異色ぶりが際立っていた。
『西遊記』をベースにしたこの作品は、傍若無人な主人公・山田太郎と個性豊かな仲間たちが繰り広げる破天荒な冒険劇で、多くの読者を虜にした。当時小学生だった筆者も、その独特な魅力に引き込まれた一人だ。そこで今回は、その『珍遊記』がもたらした衝撃をあらためて振り返ってみたい。
■ジャンプ黄金期においても圧倒的な存在感を放つ
作者である漫☆画太郎さんは、1989年ギャグ漫画家新人賞「GAGキング」を受賞し、わずか17歳、高校3年生でデビューを果たしたいわゆる天才漫画家だ。
『珍遊記』連載当時、『週刊少年ジャンプ』(集英社)はまさに黄金期で、『ドラゴンボール』、『SLAM DUNK』、『幽☆遊☆白書』の“ジャンプ三本柱”をはじめ、『ジョジョの奇妙な冒険』第3部や『ろくでなしBLUES』、『まじかる☆タルるートくん』など、名作がひしめいていた。しかしそのなかでも『珍遊記』は、独自の存在感を放った。
スクリーントーンをほとんど使わず、一見荒々しくも細かく描き込まれた画風が特徴で、さらに、血が吹き出したり、首が千切れるといった暴力的・グロテスクな描写や、放屁、嘔吐などの下ネタも満載だった。
そんな作風の『珍遊記』は、当時小学生だった筆者にとっては、正直めちゃくちゃ恐ろしかった。しかし怖いもの見たさというか、その異質な魅力に次第に引き込まれていくことになったのである。
■一癖も二癖もある登場キャラたち
『珍遊記』は登場キャラクターも非常に個性的だ。主人公の山田太郎は、ジャンプの主人公とは思えないほど凶悪で攻撃的。本作が『西遊記』のパロディであることから、孫悟空に相当する役割を担っているものの、当時は『ドラゴンボール』が連載されていたためか、さすがに“孫悟空”という名前は使われていない。
そして太郎の師匠である玄じょうをはじめ、太郎を育てたじじいとばばあ、さらには賞金稼ぎのガンス、ザーマス、カイカイ、フンガー、そして悪ガキ3人組のたけし、きよし、やすしなど、脇役たちも一癖も二癖もあるキャラクター揃いだ。
とくに個人的に印象に残っているのが、世界最強の武闘家・中村たいぞうだ。“中村たいぞう”という名前はかなり序盤から登場するのだが、コミックの予告漫画で画太郎さん本人が「まだ考えてねーよ」と発言するなど、全然姿を現さなかった。
しかし、中村たいぞうは物語の最終盤にようやく登場する。道端で嘔吐する酔っぱらいでありながら、本作のラストバトルの相手となった。ちなみに“中村たいぞう”という名前は、当時の担当編集者の名前を借りていたそうだ。