藤子不二雄Aさんによるブラックユーモア作品として知られる漫画『笑ゥせぇるすまん』。黒ずくめの不気味なセールスマンが、現代人のココロのスキマを埋める1話完結型のストーリーで、1990年代のバブル崩壊期の世相にピッタリハマって大ヒットとなった作品だ。
同作は、1989年から1992年まではバラエティ番組『ギミア・ぶれいく』(TBS系)内の10分枠のコーナーとしてアニメ化。番組のメインターゲットは大人層だったが、21時から23時前という遅めの放送時間にもかかわらず、子どもたちからも多大な人気を集めていた。
ストーリーは毎回、夜の都会の街並みの実写映像と喪黒福造のシルエットで始まり、そして「この世は 老いも若きも 男も女も ココロの淋しい人ばかり……そんな、みなさんのココロのスキマを お埋めいたします」というセリフが流れる。
喪黒は心のさみしい現代人の前に現れ、ボランティアで主人公たちの願いを叶えてくれる。しかしその幸せも束の間、各話の主人公はたいてい喪黒との約束を破ってしまい、喪黒による「ドーン!!」の制裁によって、悲惨な結末を迎えてしまう。
その制裁の中にはビジュアルとしてのインパクトが強く、トラウマとしていつまでも心に残り続けるシーンも少なくない(そもそも喪黒の顔面だけでも相当怖いのだが……)。特に子ども時代は、怖いシーンを見たことによって寝るのが怖くなったものだ。
今回は『笑ゥせぇるすまん』の中でも特に衝撃的なビジュアルに震えたトラウマエピソードを振り返りたい。
■髪が抜け…歯が落ち…
まずは「老顔若体」というエピソード。この回の主人公は73歳の会社社長・出雲若志。顔は若く、どう見ても50代で、若く見られることが自慢だったが、その肉体には年齢相応の衰えがきていた。
喪黒は、出雲の肉体が若さを取り戻せるように喪黒の顔の柄の特製の鉄アレイを渡すが、「若い子と恋をしてはいけない」と忠告する。
しかし、結局出雲は喪黒の忠告を無視し、ホテルで女性と熱い一晩を過ごしてしまう。一度にたくさんの精力を失った結果、出雲の外見は髪が抜け、話している最中にも歯が抜け落ちるガイコツのような恐ろしい姿になってしまった。
この姿は、かなりインパクトのあるビジュアルだった。大人ならではの欲望が描かれているという点で、子ども向けとはいえない内容だったが、このシーンは子ども心に衝撃だった。
続いては「プラットホームの女」。銀行員の直木純一は、毎日同じ電車に乗っているマスクの女性に好意を持つも、気弱なため声すらかけられない。そんな折、喪黒がふたりの仲を取り持つという。
その後、女性は直木の家を訪れ、彼の前で突然服を脱ぎマスクを取った。その姿は直木の想像通り全てが美しかった。しかし女性にはまだ秘密があるようで、無機質な声で「ごらんなさい、これでも私を愛してくれますか」と言いながら自分の眉間を押すと、顔が少しずつひび割れて崩れてしまう。
実は彼女は整形手術に失敗し、皮膚が剥ぎ取られたかのようなおぞましい顔になってしまったのだ。その顔にショックを受けた直木の姿で物語は終わる。
この回のストーリーはまるで、都市伝説の「口裂け女」のようだった。無責任な一目惚れを戒めるような内容だったが、その女性は普段は美女の仮面を被っており、本当に性格も良さそうな人だったので、人によっては彼女と付き合えるかもしれない。