巧妙な緩急と伏線により練り込まれたストーリーと、暗くおぞましい展開の数々で読者を震え上がらせる“サスペンス漫画”だが、その高い人気から実写として映像化されている作品も多い。原作の雰囲気をそのままに、より生々しい表現力によって多くの視聴者にトラウマ級の衝撃を残した、名俳優たちの“怪演”について見ていこう。
■肉体のうちに宿した“暴力衝動”の発露…『降り積もれ孤独な死よ』成田凌
2021年に『マガジンポケット』(講談社)で連載が開始された『降り積もれ孤独な死よ』は、原作:井龍一さん、漫画:伊藤翔太さんのタッグが送る、ヒューマンサスペンス作品だ。
2024年7月より実写ドラマが絶賛放送中だが、このドラマ版で主演を務め、その演技で視聴者を惹きつけているのが成田凌さんだ。
過去に起こった子どもの“白骨死体遺棄事件”に残されていた謎の“マーク”が7年後に再び出現し、登場人物たちの過去と現在が巧妙に絡み合っていく……というストーリーの本作。
成田さんは物語の核となる“白骨死体遺棄事件”を追う刑事・冴木仁を演じており、過去に起こったおぞましい事件の真相へと迫っていく。ストーリーが展開するにつれ真実が解き明かされると共に、彼に隠された大きな“闇”があらわになるのも本作の仄暗い魅力の一つだろう。
普段は真面目な刑事としてふるまっている冴木だが、実は凄まじい“暴力衝動”を抱え込んでおり、彼自身もこの事件に深くかかわりを持っていることが明らかとなるのだ。
たびたび衝撃的な描写が話題となっている本作において、成田さんが視聴者に強烈な“トラウマ”を残したシーンと言えば、事件の真犯人と冴木が言葉を交わしていく場面だろう。
ついに事件の真相へとたどり着いた冴木たちだったが、犯人は悪びれることなく過去のおこないを肯定し、親から“暴力”を受けて育った子どもは存在するべきではない……と、持論を展開し始めてしまう。
この一言がきっかけとなり、冴木は豹変。彼は犯人へと掴みかかり、己の抱え込んできた“暴力衝動”に任せて犯人を殴り続けるのだ。感情の波が消え去った冷徹な表情のまま、仲間の制止を振り切り、ただひたすらに犯人に暴力を行使する姿は本当に壮絶で恐ろしかった。
事件の真相へと迫る刑事のひたむきな姿と同時に、彼が抱え込んだ底知れぬ“闇”を見事に演じ分けた演技は圧巻のひと言。9月8日の最終話まで目が離せない。
■“雨”が降る日にやつは現れる…『ミュージアム』妻夫木聡
サスペンス作品において、数々の凶悪犯罪を引き起こす“殺人犯”の存在は欠かすことができない。2013年から『週刊ヤングマガジン』(講談社)にて連載された巴亮介さんの『ミュージアム』にも、実に個性的かつ謎に包まれた“殺人犯”が登場している。
本作は、自身を“アーティスト”と称する連続殺人犯と、彼を追う刑事の駆け引きを描いていくサスペンス作品だ。その人気から、2016年には俳優の小栗旬さんを主演とした実写映画が公開された。
豪華キャスト陣と素晴らしい原作再現度が話題を呼んだが、なかでも本作の“顔”とも呼べる快楽殺人鬼・カエル男の配役には驚かされた。作中ではその名の通り“カエル”の覆面で顔を隠している彼だが、この不気味な殺人犯役に抜擢されたのが妻夫木聡さんだ。
覆面の下にスキンヘッドの素顔を隠し持つカエル男だが、妻夫木さんは“特殊メイク”を施すことで原作同様のビジュアルに己の顔を近付けている。加えて、妻夫木さんは今回の役作りのためにジムに通って徹底的な肉体改造をおこなったという。
そのような見た目の完成度はもちろん、やはり際立つのは作中で妻夫木さんが見せるカエル男の“怪演”の数々だろう。
不意に見せる微笑やちょっとした仕草など、独特の不快感を観る者に与える立ち振る舞い。さらに、彼が執行するおぞましい“私刑”の数々の描写は観客の度肝を抜いた。
小栗さんとの激突も大きな見どころの一つで、妻夫木さんの演技への凄まじい熱量が、“殺人鬼”としての鬼気迫る姿となって表れている。観客たちにとっては、カエル男が出現する“雨の日”が忘れることのできないトラウマになってしまうかもしれない。