■最初はモブのひとりっぽかった…『サイコメトラーEIJI』江川透流
次は原作:安童夕馬さん、作画:朝基まさしさんによる『サイコメトラーEIJI』(講談社)の江川透流を紹介したい。透流は主人公である映児の親友で、不良グループを取りまとめるカリスマ的な存在だ。
しかし、初登場時はまったくそんな感じには見えない。映児を茶化すモブキャラのひとりでしかなかったからだ。それがストーリーが進行するにつれて、立ち位置が変わっていく。
事件に巻き込まれることで、少しずつ透流の過去について語られるようになり、政治家の愛人の息子ということや空手の達人で渋谷の顔という背景が明かされていく。映児とはもとは敵対関係だったというので驚きだ。
透流がモブからの脱却を果たしたのに作者の意図があったのか?というと、特に語られてはいない。とはいえ、映児の友人たちは皆少なからず事件に巻き込まれていくので、物語を盛り上げるための自然な流れだと思う。
最終的に主役級の活躍をして作品に欠かせないキャラになっていった透流。初期の彼を見返すと「え?こんな感じだったの?」と思わず笑ってしまう。
■小物臭がすごかったのに…『鋼の錬金術師』ヨキ
最後は荒川弘さんによる『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)に登場した軍人・ヨキだ。彼は物語の序盤で、よくいる小悪党として主人公のエドたちの前に現れた。
当然ながらあっさり成敗されたヨキは、二度とその姿は見られないと思われたが、意外にも何度も登場する。傷の男の小間使いとなり、一緒に旅をすることでエドたちと再会したのだ。
しかもブリッグズではエドたちが軍からの追跡を逃れる際、元炭鉱経営者という経験を活かして打開策を打ち出す。これによってエドたちは山中の突破が可能となった。
さらに物語終盤では、プライドとの戦いに参戦。プライドを車で跳ね飛ばしてアルたちを救出するなどの漢気を見せる。ところどころに見せる活躍の数々に、読者は驚かされるばかりだったはずだ。
しかし、これもヨキというキャラの良さがあるからでもある。小悪党だけどどこか憎めない……。そんな雰囲気を出しているから、あっさりと殺されないということにもつながるのだろう。
『鋼の錬金術師』は意外とギャグ要素も強いので、こういったキャラを活用したい作者の考えもあったのかもしれない。
漫画は必ずしも完結が約束されているわけではない。そのため、流れでキャラ設定がいろいろ変わっていくこともある。時に初期設定からは想像できない活躍が見られるのも、読み手としては面白いポイントだ。