■ずる賢くてたくましい! 人間味あふれる美貌の悪女

『ベルばら』三大悪女の最後を飾るのは、パワフルな悪女「ジャンヌ・バロア」。

 ジャンヌは庶民の母や妹ロザリーとともに下町で暮らしていたが、父親は旧バロア王朝の流れをくむ貴族という血筋のため、家族を捨ててブーレンビリエ侯爵夫人の養女となる。

 名門バロア家の血筋と持ち前の美貌で注目を集めたジャンヌだったが、病気の母のために訪ねて来たロザリーを、恋人ニコラスを使って痛めつけて追い返すという非道ぶり。さらに、ブーレンビリエ侯爵夫人を殺害したうえに遺言書を偽造し、全財産を相続。借り物だらけの屋敷で豪華なパーティを催し、のし上がろうとした野心家だ。

 さらにアントワネットに恋焦がれるローアン司教に近づくと、自分は「大の親友」とウソをつき、偽造した手紙や王妃そっくりな娼婦との密会で信用させる。こうして王妃をかたってローアンから金品を巻き上げ、数々の犯罪に手を染め続けたジャンヌは、ついにはフランス王室をも巻き込んだ「首飾り事件」を起こしてしまう。

 アントワネットが購入したとされる高価な首飾りの代金が支払われず、困り切った宝石商が訴えたが、実はジャンヌがだまし取っていたという詐欺事件である。

 ローアンの証言から事件関係者は捕らえられ、パリ高等法院でジャンヌは巧みな話術でアントワネットに罪を着せようとするも、判決は有罪。両肩に泥棒を意味する焼き印をおされ、終身禁固刑に処された。

 しかし、王族に反感を持つ層の支持を得たジャンヌは、彼らの手引きで脱獄。「ジャンヌ・バロア回想録」と題した暴露本を発行し、捏造した内容で再びアントワネットたちを陥れる。

 最後は、ジャンヌがロザリーに送った手紙から潜伏先がバレて、屋敷に篭城。兵を率いるオスカルに対し、建物に火薬をしかけて抵抗するが、誤って夫のニコラスを殺めるとジャンヌ自身もバルコニーから転落して死亡した。

 自分の欲望に正直に生きたジャンヌだが、ロザリーへの手紙に居場所を記した理由は、彼女のなかに唯一残された「情」だったのかもしれない。

 そのほか、オスカルの姪「ル・ルー」が活躍する『ベルサイユのばら 外伝』にも多くの悪女が登場。『黒衣の伯爵夫人』には若い女性の生き血で若さを保てると信じたエリザベート・ド・モンテクレールが描かれ、『トルコの海賊と修道女』には、孤児や私生児を海賊に売り渡していた修道院院長ベアトリスという悪女が登場する。

 彼女たちの誰もが美しさと、したたかさを持ち合わせ、欲望の赴くままに普通では考えられない悪行を重ねて強烈なインパクトを残した。場所や生まれ、生き様は違えど、彼女たち「悪女」も間違いなく『ベルサイユのばら』という作品を彩った「美しい“ばら”」なのである。

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