世界中の人々から愛され続けている、スタジオジブリの長編アニメーション作品たち。どの作品もファンタジーとリアルが入り混じる繊細で美しい映像、心に訴えかける深いメッセージ性など我々の心を掴んで離さない魅力に満ちており、8月23日の日本テレビ系『金曜ロードショー』では『となりのトトロ』が、そして30日には『天空の城ラピュタ』の放送が控えており、注目が集まっている。
宮崎駿監督によるアニメ作品では、本編では明かされていない裏設定の数々もファンの間でたびたび話題に上がる。宮崎監督は制作段階で登場キャラの性格や生い立ちをかなり詳細に設定しており、後にインタビューやファンブックなどで知って「あのキャラにそんな設定があったの?」と驚いたという人も多いのではないだろうか。今回は、そんな驚きの裏設定を見ていこう。
■正体は…人間?動物?『千と千尋の神隠し』のリン
『千と千尋の神隠し』には、カオナシや大人になれずに死んだヒヨコの神様・オオトリさまといったインパクトの強い神々が登場する。一方、油屋の従業員は人間のように見えるが、彼もまた人間ではない。
彼らのモデルは、くすんだ肌色の男性陣がカエルで、面長で艶っぽい女性陣がナメクジだ。宮崎監督いわく、我々人間の日常は「カエルやナメクジのようなもの」なのだとか。新しい社会に飛び込んだ千尋のような若者にとって、そこで働く大人は皆同じように見えるという観点から、現代人のモチーフとしてこれらの生き物を選んだことを、スタジオ公式ツイッター(現在は運用終了)で明かしている。
そうなると気になるのが、彼らとは明らかに違う外見の「リン」である。ヒントの一つが、美術資料をまとめた書籍『THE ART OF 千と千尋の神隠し』にあった。
掲載されているリンのイメージボードを見ると、頭の上に小さく「白狐」と書かれている。確かに、色白・面長・釣り目という顔立ちは狐っぽい。黒イモリに反応を示したり人間に驚いたりする行動にも、通じるものがあるといえるだろう。
ただ、これは確定ではない。というのも、劇場版パンフレットには「人間」と書かれているのだ。他にも、作画監督を務めた安藤雅司さんがインタビューで「当初はイタチかテンが変ったキャラクターにしようという話があった」とも語っていた。その設定が通っていた場合、目と口が大きくて輪郭からはみ出るくらいだったというから驚く。
元設定は“白狐やイタチ”といった動物だったが、最終的に“千尋同様戻れなくなった人間”という設定になったのかもしれない。神々の世界を描いた作品ゆえ、彼女の真の正体はどんなルートもあり得るが、細かなキャラたちの物語を想像するのも楽しい。
■数々の作品に登場したあの生き物は絶滅動物!?「ミノノハシ」
宮崎監督の手掛ける作品の中には、これまでに数多くの不思議な生物が描かれてきた。その中でも最多登場回数を誇るのが、茶色いふわふわの体とグレーのしっぽ、4つの赤い目とネズミのようなヒゲを持つ、カモノハシの親戚を思わせるフォルムの「ミノノハシ」だ。
初登場は1983年に出版された絵物語『シュナの旅』で、太古の生き物たちと一緒に描かれていた。小さな生き物なのでよく見ないと見逃してしまうが、その他の作品では『天空の城ラピュタ』のラピュタ庭園の水辺、『もののけ姫』のイノシシに化けた人間から逃げる動物の群れの中、さらに漫画版『風の谷のナウシカ』でもその姿を見ることができる。
そんな準レギュラー的存在とも言えるミノノハシの正体は、絵コンテによると、なんと「17世紀に絶滅したタスマニア島の原始哺乳類」なのだとか。なんとも真実味のある設定だが、実はこれは宮崎監督の創作なのである。
鈴木敏夫さんの著書『スタジオジブリ物語』ではその経緯が記されている。『ラピュタ』制作時に色指定の安田道世さんがミノノハシの色を知りたいと演出助手の須藤典彦さんに依頼し、図書館でタスマニア島の原始哺乳類を調べたがまったく見つからず。宮崎監督に相談したところ実は監督が考えた架空の生物だと判明した、というクスッと笑える裏話も明かされていた。