1977年から『週刊少年キング』(少年画報社)で連載された、松本零士さんの『銀河鉄道999』。機械の体を手に入れたいと願う少年・星野鉄郎が、謎めいた美女・メーテルとともに、銀河超特急999号で多彩な惑星を巡る冒険物語だ。
そんな本作には親子愛をテーマにした話も多く、オープニングから鉄郎の母親が射殺されるといった衝撃展開が描かれている。
悲しい別れを経験しつつも強い絆で結ばれていた鉄郎と母親だが、999号で出会う親子はまた違った関係が描かれていた。そこで今回は『銀河鉄道999』に登場する印象深い親子のエピソードを紹介したい。
■鬼の所業…娘を守るたくましい母の行動「雪の都の鬼子母神」
まずは、生き残るために鉄郎の体でさえ食料にしようとした、たくましい親子を紹介したい。コミックス5巻「雪の都の鬼子母神」に登場する星は、一面銀世界の広がる寒い星「雪の都」である。
そこへ到着した鉄郎とメーテルだが、鉄郎は足を踏み外し貧しい人たちの住むエリアへ落ちてしまう。そこで鉄郎は「なにかちょうだい おなかペコペコなの」とねだる少女・ユキと出会い、ポケットに入っていたビスケットのかけらをあげた。
その後、ユキの家に案内され、ユキの母からもてなしを受ける鉄郎。しかし実は、親子は彼を焼いて食料にする計画を立てており、危うくオーブンで丸焼きにされそうになってしまう。しかし母はビスケットのかけらをユキがもらって食べていたことを知り、ちょうどメーテルが駆けつけたこともあって、鉄郎はなんとか助かるのであった。
作中でユキの母が鉄郎を解放した理由は明言されていないが、ビスケットを我が子に与えてくれた優しさに免じてのことだろう。「雪の都」の貧しい人たちは旅行者を食料にするしか生きるすべがなく、この親子の行動はある意味仕方のないことだったともいえる。
その現状を知った鉄郎も「ぼくとお母さんだって、もっとひもじい思いをしたら、あんなことをしたかもなあ……」とつぶやき、メーテルも「私だってね、いざとなったらあの娘のお母さんより恐ろしい女になるかもね…」と答えている。
タイトルにある“鬼子母神”とは、自分の子どもを生かすためにほかの子どもを奪って食べた鬼子母に由来している。娘とともに生き残るため鬼の所業ですらおこなう母の姿は、なんとも恐ろしくもたくましい。また、鉄郎が母親と過ごした厳しい生活を思い出し、ユキ親子に同情する姿も印象的だった。
■父親を諭した息子「嵐が丘のキラ」
『銀河鉄道999』では、鉄郎のパスがよく盗まれる。コミックス7巻「嵐が丘のキラ」は、そんな窃盗をきっかけに父子の関係があらわになったエピソードだ。
一日中すさまじい嵐が吹き続ける「嵐が丘」の駅に降りた鉄郎とメーテル。ホテルでの滞在中に鉄郎はパスを盗まれ、犯人とおぼしきキラという青年を追い詰める。キラの父親は「人さまの物を盗むなんてっ!!」と殴りつけ説教するものの、キラは犯人は自分ではないと認めなかった。
結局パスは見つからず、999号に乗ることができない鉄郎。するとそこにキラが現れ、“パスを取り戻すから列車に乗り込む方法を考えてくれ”と言う。
その言葉を信じることにした鉄郎とメーテルがキラを999号に連れて行くと、そこで彼は鉄郎のパスを持った人物に向けて銃を撃つのだ。
……実は鉄郎のパスを盗んだのはキラの父親だった。最後までパスを返さないと抵抗する父親に対し、“お願いだから返してくれ、でないと、今度は頭を撃たなければならない”と、キラは宣言した。
自分の息子を犯人に仕立て上げ、1人だけでこの星から旅立とうとする父親は最低と言えるだろう。しかしその父親を諭し、鉄郎にパスを返したキラは本当に立派な若者だ。
作中、メーテルも「あなたのお父さんは立派な方よ」「あなたはお父さんの心を映して育った…あなたを見ればお父さんがどんな人だったか よくわかるわ」と伝えている。そして、本来パスの窃盗は死刑になるほどの重罪なのだが、車掌もキラの父親のしたことに目をつむり、二人を列車から降ろすのだった。
父親のしたことはもちろんいけないことだが、過酷な環境下でここまで息子を育てあげたことは事実だ。最後は嵐が吹き荒れるなか、キラが999号に向かって「いつか胸をはって乗ってやるからな!!」と決意を見せており、その姿になんとも勇気をもらえる。