■すべての因縁はここから始まった…志村転弧
作中の至るところでヒーローたちの前に立ちはだかる敵連合だが、作中屈指の強敵として描かれるリーダー・死柄木弔はほかの追随を許さない圧倒的な実力で多くのキャラクターを殺害してきた。
しかし彼は、もともとは志村転弧という名を持つ普通の少年で、なんと主人公・出久同様に“無個性”の少年として幼少期を過ごしてきた過去がある。
家族の愛情や経済的にも恵まれていた転弧だったが、彼は父から“ヒーロー”に憧れることを禁じられて育った。実は彼の父・弧太朗の母も有名なヒーローだったが、家族を残して死んでしまった彼女のことがトラウマとなった父は少しでも家族をヒーローから遠ざけようと必死になっていたのだ。
家族も父に逆らうことはできず、徐々に転弧は家庭内で孤立していくのだが、ある日、ふとしたきっかけで彼のなかに眠っていた“個性”が覚醒してしまう。その“個性”とは、触れたものを容赦なく崩し塵に変え破壊してしまう、“崩壊”と呼ばれるものだった。
強力無比な能力ではあるが、幼い転弧が自身の個性の本質を知るよしもなく、彼は無意識に飼い犬、姉、祖父母、そして母親までをも“崩壊”の力で殺害していってしまう。
そして最後に彼は己の個性が持つ“本質”を悟り、今まで自分や家族を縛り続けていた怨敵である父を「死ね」の一言とともに、明確な殺意を持って“崩壊”させたのだ。
この出来事を経て彼はやがて死柄木弔を名乗り、数々のヴィランをまとめ上げる悪の頂点とも言える存在へと成り上がったのである。不幸の連鎖……という言葉では到底足りない、あまりにも壮絶かつ過酷なエピソードを披露したキャラクターだ。
『ヒロアカ』ではさまざまなヒーローやヴィランが激闘を繰り広げるが、思わず目を背けてしまいたくなるような強烈な描写も少なくはない。
死亡シーンや廃人化、悲しき過去など、数々の“トラウマ描写”もまた、読者にインパクトを与える見所の一つなのかもしれない。