■突拍子もないやり方で勝利を収めた「モラウVSレオル」

 最後に、ライオン型のキメラ=アント、レオルと、巨大なキセルとサングラスが渋いモラウ=マッカーナーシとの戦いを紹介したい。

 レオルの能力は「謝債発行機(レンタルポッド)」。恩を売った相手の能力を、一回につき一時間だけ借りることができる。これによりモラウを地下教会に追い込んだレオルは、モラウの友人からレンタルした「TUBE(イナムラ)」を発動。雨の日に大量の雨水を呼び寄せて水(なみ)を起こす能力で、周囲の水を利用するため能力が解除されても水が消えないのが特徴だ。

 モラウもろとも地下教会を水没させたレオルは、具現化したサーフボードに乗って水面を監視し、息継ぎのため浮かんでくるモラウへの攻撃の機会を待つ。しかしモラウは一向に現れないどころか、水面のいたるところからボコボコと呼吸の泡が上がってくるではないか。そのうちにレオルは眩暈に襲われ、動揺からサーフボードが消えて落水してしまう。

 モラウは、水中で「紫煙拳(ディープ・パープル)」によってホース状にした煙を無数に張り巡らせ、そこから密室になった教会内に毒を放っていた。この毒の正体は二酸化炭素。どこにでもあるが高濃度になると危険な気体だ。

 モラウは驚異的な肺活量で教会内の空気を吸いつくし、呼吸によって二酸化炭素濃度を増加。そうして、毒により身動きできなくなったレオルはそのまま溺死したのだった。

 “地下教会”という密閉された空間と、“能力が解除されても水が消えない”という特性が、逆にレオル自身を追い詰めることとなったこのバトル。「お前が攻撃してた時すでにオレの攻撃は始まってたんだよ」というモラウのセリフにシビれる。

 

 以上、「キメラ=アント編」から3つの名勝負をまとめてきた。バトルにこだわらなければ、一番の名勝負は「コムギVSメルエム」の軍儀勝負だったように思う。

 冷酷な蟻の王・メルエムと、壮絶な覚悟をもって軍儀に臨む少女・コムギ。彼女との勝負を通して、メルエムは戸惑いや慈しみといった心の動きや価値観の変化など、内面的な変貌を体験することになる。

 “『H×H』最強”との呼び声が高いメルエムだが、コムギには結局最後まで一勝もできなかった。そして、最期の時を迎えるまで手合わせを続ける二人の様子は、本作きっての名シーンでもあった。

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