2022年12月以降、長期休載が続いている人気漫画『HUNTER×HUNTER』だが、今年5月より作者の冨樫義博氏がXで制作状況を投稿しはじめ、連載再開に向けて期待が高まっている。
現在、物語は未知の大陸への船旅とカキン帝国の王位継承戦を描いた「暗黒大陸編」の真っ最中。本編は主人公であるゴン=フリークス不在のエピソードだが、ゴンがいなくとも「ネテロ会長VSメルエム」「クロロVSヒソカ」「クロロVSシルバ&ゼノ」……と、『H×H』を代表する名勝負は枚挙に暇がない。そこで連載再開を前に、一つ前の「キメラ=アント編」より、主人公不在の名勝負を振り返りたい。
■瀕死の状態からの大逆転…「キルアVSオロソ兄妹」
まずはゴンの友人であるキルア=ゾルディックと、彼を本編で初めて瀕死の状態まで追い詰めた強敵、オロソ兄妹との勝負だ。
オロソ兄妹の能力は「死亡遊戯(ダツDEダーツ)」。妹が念で創ったバッジをつけた相手と兄が別室で投げるダーツの的とを連動させ、ダーツが刺さるのと同じように相手の体にもダツ型の“念魚”が刺さるというものだ。この念魚は、ダーツが的に刺さるまで存在しない。つまり念魚が現れた瞬間にはもう刺さっているという、回避不能な攻撃だった。
しかし、これに対し、体中を刺されながらも最後の一投を待つキルア。ダーツのルール上、最後は額に攻撃が来る。これを読み切ったうえで額に注意を集め、オーラを電気に変えてまとわせ、そして皮膚の触覚から脳、脳から手の神経へと電気指令を伝えるのではなく、オーラを感知した瞬間に直接手の神経に「掴め」という電気信号を送った。これにより、念魚が実体化した途端に掴むという超高速的な反射神経を実現させたのだった。
そうして反撃の機会を得たキルアは、最終的にオロソ兄妹の首を落とし、追い込まれつつも何とか勝利を収める。
以前のキルアは、兄・イルミの洗脳により、勝てない相手とは戦わないスタンスに囚われていた。それがいずれゴンを見殺しにすると分かっていてもなお変えることはできず、一度はゴンの元を立ち去る決意をしたほど。しかしラモット戦での激しい葛藤の末、ようやくイルミの洗脳を解くに至った。
それを経ての、命がけで戦ったオロソ兄妹戦。キルア自身の戦い方を方向づけたという点でも、まさに名勝負と呼ぶにふさわしい一戦ではないだろうか。
■あまりにも苦い勝負…「シュート・ナックル・メレオロンVSユピー」
続いて、キメラ=アント王直属護衛軍の一人であるモントゥトゥ=ユピーに、シュート=マクマホン、ナックル=バイン、メレオロンの連携チームが挑んだ場面だ。
当初の作戦は、ナックルの「天上不知唯我独損(ハコワレ)」。相手に攻撃したときのオーラ数値を「貸し」として、10秒に1割の「利息」を課してオーラを取り立てる。相手のオーラ残量が0になると「破産」となり、30日間強制的に「絶」の状態にさせるこの能力がカギだった。
メレオロンの持つ、手で触れているものを透明にさせる能力「神の共犯者」により存在を消したナックルが、ユピーに対して秘かにハコワレを発動させ、破産を待つ。
しかし100m以上離れてしまうと取り立てが止まってしまうため、至近距離で気づかれずに時間を稼がねばならない。それゆえに身を挺してユピーの注意を引き続けるシュートだが、それにもやがて限界が来てしまう。ボロボロになりながらも使命を果たそうとするシュートだったが、そんな彼に止めを刺そうともせず、ユピーはその場をあとにする。
そもそもユピーの関心は王の安全のみ。払ったコバエの生死などどうでもいいという様子だった。シュートは幸運にも命拾いしたし、あとは待つだけで任務達成……のはずだったが、傷つけられたシュートの誇りを取り戻すため、ナックルは姿を現し、ユピーに挑む。
最終的にナックルは、仲間の命と引き換えにハコワレの解除を余儀なくされる。これまでの努力が水泡に帰すと分かったうえでの苦渋の決断だった。しかしそれすらもユピーは意に介さず、悠々と背を向けて立ち去る。結果として誰も死なずに済んだが、圧倒的な強さを前にして完膚なきまでに誇りを叩き折られるという、あまりに苦い勝負となってしまった。
悔しさに涙するシュート、世界の平和よりも誇りのため戦ったナックル、自分なりのやり方で彼らの誇りを守ろうとしたメレオロン。緻密な設定に乗せて描かれた三者三様の思いと、胸の詰まるシリアスな結末は、まさに『H×H』らしい名勝負と言えるだろう。