■三人を手術して三十円!?「がめつい同士」
同じく11巻に収録されている「がめつい同士」は、ブラック・ジャックが治療費五千万を払おうとしない男・合羽を追い回すところから始まる。高利貸しである合羽は、今からひと仕事をして金を取り立てるのに成功したらきちんと支払いをすると約束した。
その後、合羽(と彼に付きまとうブラック・ジャック)が向かったのは、経営難に苦しむ工場主のところだ。あと三カ月待ってほしいと土下座する彼から、合羽は工場と家の権利書を奪い取る。ブラック・ジャックは、そのうち五千万円相当の工場の権利書を受け取った。
しかしその後、将来に絶望した工場主とその妻子がトラックに飛び込み心中を図る。偶然その現場に居合わせたブラック・ジャックは、自分も無関係ではないとの思いもあったのだろう、すぐさま応急処置に乗り出した。そして三人の手術をある程度済ませると、あとは病院に運ぶよう言い残して颯爽と去っていく。
やがて一家が運ばれた病院の人間がブラック・ジャックを見つけ出し、「診察費を請求していただきたい」と言っても、彼は「五十円」「高すぎるかね それじゃあまけて三十円」と驚きの金額を提示。驚く相手に「あんなもの 金をもらうほどの仕事じゃない」と言い残すと、またもクールにその場を立ち去った。
しかも去り際、ブラック・ジャックは自分が受け取った土地の権利書を「予防薬」として患者に渡すようはからい、ついでに合羽を言いくるめて家の権利書までおまけでつけている。結果として彼は何ひとつ受け取れていないどころか、損をしてさえいるのだ。
物語の展開が見ごたえたっぷりなだけでなく、ブラック・ジャックと合羽のやりとりや最後のオチにもニヤリとさせられる、実に秀逸なエピソードである。
今回紹介したもの以外にも、ブラック・ジャックが信じられない低報酬で働いたエピソードは数多い。場合によってはむしろ損をしているのでは……と思ってしまうケースもあるほどだ。自身の信念に従い多くの患者を救うブラック・ジャックの物語、請求額に注目しつつ読んでみるのも面白いかもしれない。