■これだけ真向から否定されたらそれ以上追及できないぜ…関羽の「そんな物はない」
最後は、『三国志』でも大人気の関羽の名セリフを紹介したい。
主君の劉備と曹操が激突して敗走。劉備軍は散り散りとなってしまい、劉備の妻子を守り抜くため曹操軍へ投降した関羽。曹操は豪傑の関羽を何とか自分の部下にしたいと考え、劉備の妻子を手厚くもてなし関羽へもたびたび恩賞を贈る。
敵対していたのにこのようなもてなしを受け、関羽は曹操へ感謝の気持ちを抱く。だが、それでも劉備への義理を一番に重んじていた。その後、劉備が生きていることが判明し、曹操への恩返し(袁紹軍との戦いで貢献)を果たした関羽は、妻子を連れて劉備のもとへと駆け付けようとするのだ。
これは三国志演義でも大きな見せ場でもあり、『三国志』でも18巻「決死の千里行」にあるエピソードだ。
さて、関羽が劉備のところへ行くには5つの関所を通らないといけない。本当は曹操に会って挨拶を済ませてから行きたかった関羽だが、彼をなんとかして引き止めたい曹操は会うことを何度も拒んだ。仕方なく門前で感謝の礼を済ませた関羽は、黙って関所へと向かう。
当然ながら何も聞いていない関所の役人たちは関羽が来て驚く。この関所を通るには告文(通行手形)が必要となるのだが、関羽はもちろん持っていない。そこで「告文は持っているか」と尋ねる関所の役人(門番)に対し、関羽は「そんな物はない」とピシャリと答えるのだ。
真顔でこんなことを言われたら、これ以上追及できないもの。役人たちも困ってしまうが、何といっても相手は豪傑の関羽。恐怖心から通過させようとする者もいれば、捕らえようとして斬られる哀れな者もいる。え……いくらなんでも斬ったらダメでしょ…感謝していたんじゃないのか?
曹操は関羽が独断で突破してしまうのではないかと思い、関羽を黙って通過させるように関所には指示を出すも、さすがに間に合わない。そこまで思ってくれているのに、関所の役人を斬るって……。まあ、会ってくれなかった曹操も悪いのだが……。
本作を読んでいた当時、どう考えても関羽がワガママなんじゃないの?って思った記憶がある。あんなに堂々と言い切るなんて……。現代だと空港でパスポートの提示を求められ、真顔で「そんな物はない」と拒否するようなもの。いや、一発アウトじゃん……。
『三国志』にはほかにも「げぇっ」「孔明の罠だ」「黙らっしゃい」などの有名なセリフがある。ネットミームとしても広く知られるこれらのセリフたちはどれも秀逸だ。全60巻もあるので読み返すのは大変だが、読み出すと止まらないのは必至だろうな。
なお、2024年は作者の横山さんの生誕90周年でもある。これを記念し、電子版ではフルカラーのバージョンも登場しているので、ぜひ気になる人はチェックしてみてほしい。