■父への愛で覚醒する娘『ジョジョの奇妙な冒険』空条徐倫と空条承太郎

 荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』第6部「ストーンオーシャン」の主人公、空条徐倫も父親との関係が悪い主人公だ。しかもその父親は、第3部で主人公だった空条承太郎である。 

 DIOとの因縁にまつわる戦いから愛する妻子を守るため、あえて疎遠になろうとした承太郎。そんな事情を知る由もなく「自分は父親に愛されていない」と感じながら成長した徐倫。悪と戦うジョースターの運命に翻弄され、すれ違ってしまったのがなんとも哀しい。

 そんな父と娘が通じ合えたのは、第19話でのことだ。冤罪により収監された徐倫は、承太郎の手引きで脱獄を図る。だが、あと一歩のところでスタンド「ホワイトスネイク」の襲撃を受け、「スタープラチナ」を奪われた承太郎は致命傷を負ってしまう。

 承太郎ひとりなら避けられたはずなのに、自分をかばったせいで……。うろたえる徐倫に、承太郎は最後の力で脱出の手順を伝え「おまえの事は……いつだって大切に思っていた」という言葉を残し、意識を失う。

 自分は父に愛されていたと気づいた徐倫は脱獄を中断。そして意識不明となった承太郎を救うため、「スタープラチナ」を奪った犯人を探し始める。

 このエピソードまでは状況に流され気味だった徐倫だが、愛を知り、運命と戦う覚悟を決めるのだ。父子の和解と主人公の覚醒、ふたつの見せ場を凝縮した名シーンである。

 

 親子関係は円満が理想だが、そうもいかないのは現実でも物語でも同じだ。すれ違いや食い違いから不仲になり、長い時間をかけて和解するケースも往々にあるだろう。

 父の日に素直に「ありがとう」を言えるなら、その父と子は幸せだ。もし、あなたがその幸せを掴んでいるならば、噛みしめながらその気持ちを伝えてみてはいかがだろうか。

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