■互いを想う気持ちがすれ違いを生んだ「時透兄弟」

 最後は、『刀鍛冶の里編』で描かれた双子の兄弟、時透有一郎・無一郎を見ていく。上弦の伍・玉壺との戦いの中で無一郎が記憶を取り戻す際に描かれた回想は、あまりの切なさに涙する読者が続出した名エピソードだ。

 かつて、有一郎と無一郎は両親と幸せな生活を送っていた。だが、10歳のときに母が肺炎で死に、悲劇の連鎖が始まる。父が嵐の中を薬草探しに出かけて転落死してしまった。。

 両親に無理をしないよう頼んでいた有一郎は絶望し、「どれだけ善良に生きていたって神様も仏様も結局守ってはくださらない」「誰かのために何かしてもろくなことにならない」と悲観的な考えのリアリストになる。

 そこから二人暮らしとなるが、幼い有一郎は精神的に余裕がなく楽観的な無一郎に怒りをぶつけ、「無一郎の無は“無能”の“無”」など心無い言葉を投げかけた。 

 11歳のときに、鬼殺隊当主の妻・産屋敷あまねが「始まりの呼吸」の剣士の子孫である二人を隊に誘った際も、有一郎は入隊しようとする無一郎に「お前に何ができる」と激怒し、あまねを追い返し続けた。そして二人の間には会話すらなくなっていく。

 すれ違いによる不仲が続く夜、鬼の襲撃に合う。無一郎は怒りで我を失いながら鬼を倒すが、有一郎は「どうか…弟だけは…助けてください… 弟は…俺と…違う…心の優しい…子です…」と虚ろな眼差しで神に祈りながら命を落としてしまった。

 これまでの厳しさは、すべて無一郎を死なせないため。心から彼を大切にしているからこそ、危険から遠ざけ鬼殺隊にも入れないようにしていた、有一郎の不器用な愛だったのだ。「わかって…いたんだ… 本当は… 無一郎の…無は…“無限”の“無”なんだ」という彼の最期の言葉は本当に胸を打つ。

 無一郎はその後あまねに助けられ、最低でも2年はかかる柱までの道のりを隊士になってわずか2か月で駆け上がり、霞柱になった。

 今回のきょうだいの他にも、『鬼滅の刃』に登場するきょうだいたちはみな絆が深い。大切な人の“死”という辛い経験を乗り越え、“想い”を繋いでいく彼らの生きざまは、感動を呼び起こすものだ。

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