1974年5月から白泉社が発行する少女漫画雑誌『花とゆめ』が2024年5月、創刊50周年を迎えた。これを記念し、東京六本木の東京シティビューでは5月24日から6月30日まで、「創刊50周年記念 花とゆめ展」が開催中だ。同イベントでの出展作家は74名。思い出の作品に再会できるだろう。
ファンタジーから恋愛もの、BL的な要素を持つ作品までさまざまなジャンルの漫画が掲載されてきた『花とゆめ』では、主人公がとてつもなく過酷な環境に置かれていることも少なくない。十代の頃に読者として作品に出会い、主人公たちの強く生きる姿に勇気と感動をもらったという読者は多いだろう。
今回は、『花とゆめ』に連載された名作漫画の、重すぎる過酷な環境にある主人公たちを振り返りたい。
■育児に苦悩する小学生が生んだ感動の最終回
まずは1991年から1997年まで連載されていた羅川真里茂さんによる『赤ちゃんと僕』。主人公の榎木拓也は小学5年生で、2か月前に交通事故で母親を亡くしたばかり。33歳の父親・春美と2歳の弟・実(みのる)とともに男3人で暮らしている。
拓也は自身もまだ10歳ながら、弟の育児や家事をこなしながら日々生活を送っている。漫画のジャンルは「ホームコメディ」であり、兄弟のほほ笑ましいやりとりには癒しを感じる描写も多いが、拓也が育児に苦悩する様子はあまりにも大変なものだった。
実は一番手がかかる時期のため、拓也は自分のことに手が回らず後回しにしてしまう。自分も母親を亡くしたばかりで辛いのに、周りに理解が得られない。作品内では育児以外でも、人間関係やいじめ問題など、多様な人間関係が描かれる。特に作中で「これ以上拓也に試練を与えるのか」と感じたシーンは、拓也は自身が「できちゃった婚」の子どもだと知り、自分はいらない子ではないのかと思い悩む描写だった。
近年「ヤングケアラー」と言う言葉が注目されているが、本作はそれをメインテーマにした先駆け的な漫画ではないだろうか。しかし全編を通して読むと家族の絆を感じる描写も多く、最終回に向けた展開は涙なしでは読めない。『花とゆめ』を代表する名作漫画だ。
■『ゴールデン・デイズ』が描く、過保護な母との関係
続いては2005年から2007年まで連載された高尾滋さんによる『ゴールデン・デイズ』。
これは、過保護な母を持つ男子高校生・相馬光也が入院中の曾祖父の危篤の連絡を受け病院に行ったところ、地震にあい約70年前の東京にタイムスリップするという話。
最近、巷で「毒親」と言うワードをよく耳にする。毒親とは、子どもを支配したり傷つけたりして、子どもにとって「毒」になる親のことだが、同作の1話で描かれた光也と母親の関係がとにかくつらい。
主人公の光也は14年前に誘拐された過去を持ち、それが原因で母が異常なほど過保護になってしまった。彼は趣味のバイオリンでの留学も夢見ていたが、母親からはそれに猛反対されてしまう。
一口に「毒親」と言いきってしまうには深い事情があるが、自分らしく生きられず親の支配下にある状況からは解放されてほしいと願ってしまう。なお、1話では光也はタイムスリップした大正時代で「記憶喪失の自身の曾祖父」として生活し、現代で危篤状態の曾祖父の願いを叶えようとするというファンタジーの展開になる。