■涙なくして読めない『寄生獣』田村玲子の最期

 最後は、Netflixでの韓国ドラマ『寄生獣 ーザ・グレイー』も好評配信中の、岩明均さんの漫画『寄生獣』より、主人公・新一にとっての初めての強敵・田宮良子。

 突如宇宙から飛来した謎の生物に脳を寄生された人間が、人間を襲うようになった世界を描く同作。田宮は新一の通う高校に赴任してきた女性教師で、その正体は寄生生物だった。他の寄生生物とは違い、極度に論理的で好奇心旺盛な一面を持ち、人間社会に溶け込みながら人間を食い殺しつつ生活するという、冷酷で理知的なキャラ。しかも、その頭脳を活かしているため、戦闘力にも優れていた。

 彼女は「自分たちはどうして生まれてきたのか」を問いながら生きており、右腕の寄生生物とともに共存していた主人公の新一に強い興味を抱いていた。その興味は、顔を変えて「田村玲子」として生きるようになってからも続く。そして右腕・ミギーと生きる新一を観察する中で、人間との共存を結論付けるに至ったのだ。

 田宮良子こと田村玲子は、“生殖実験”のために妊娠し出産するが、赤ん坊に何の感情も抱いていなかった。だが、新一や人間を観察していくうちにそれが次第に変化していく。そして彼女は最後、警察らによって殺されてしまうのだが、自らの体を盾にすることで赤子を守り、それを新一に預ける。それまで描かれていた寄生生物の頃とはまったく異なった行動だった。

 主人公と共に戦うという、バトル漫画のような定番の展開はないものの、恐ろしい敵が主人公をきっかけに“光”を見つけた、漫画史に残る名シーンだろう。

 じわじわと内面が変わっていったり、別人のようにガラリと変わったり、漫画の定番である、「光落ち」。もともとの「闇」のイメージとのギャップが強いほど、その魅力に惹かれてしまうものだ。

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