最初は悪役として登場したキャラクターが、主人公や周りの人物と関わっていくうちに、「善なる心」を見つけていく――。最初は敵として悪行を繰り返していた彼らが味方としてともに戦うという、“闇落ち”とは逆の“光落ち”は、漫画ではよくみられる展開だ。
鳥山明さんの漫画『ドラゴンボール』でたとえるなら、いつの間にか愛や正義のために地球人を守るようになったピッコロやベジータが典型的な存在だろう。そういった、光落ちキャラを3人、ピックアップして見ていこう。
■復習に燃える傷の男『鋼の錬金術師』スカー
彼は、かつてアメストリス軍が行ったイシュヴァールの惨劇により多くの同朋の民族を殺されたことで、アメストリスに復讐を誓った「傷の男」。その悲しい過去から、主人公のエドワード・エルリックを含むアメストリスの国家錬金術師とは相容れない関係だった。国家錬金術師連続殺人事件の犯人として登場し、物語の最後の最後まで、主人公側の敵、もしくは第三勢力として描かれていた。
作中で何度か描かれた、国家錬金術師と協力することになった場面でも、利害の一致による“一時共闘”といった様子で、立場的には終始一貫していた。
しかし、エドやヒロインのウィンリィ・ロックベルなどとの出会いにより、彼の心境は物語中盤辺りから徐々に変化していく。国家錬金術師を抹殺し、復讐を果たすという目的で動いていた彼は、アメストリスという国家を変えることで悲劇を防ごうという方向に、徐々にシフトしていったのである。その様子は“光落ち”とも呼べるようなもので、多くの読者の目に魅力的なキャラとして映ったはず。
敵とすべき相手がアメストリスからエドたちの敵でもあるホムンクルスへと移り変わったためという部分もあるが、イシュヴァールの惨劇に国家錬金術師が加担したのは事実である。物語序盤のままのスカーであれば、ホムンクルスとの決着以後も、イシュヴァールの復興よりアメストリスへの復讐を優先していたかもしれない。
■幽助の眩しさに惹かれていった『幽遊白書』飛影
続いては冨樫義博さんの漫画『幽☆遊☆白書』より飛影。主人公側の中でも明確に強キャラであり、必要以上に喋ることを嫌うクールなイケメンキャラである。そのため、漫画やアニメが放送されていた当時は、少年読者だけでなく女性読者からの人気も高かった。
物語を通して見ると、飛影は幽助たちの味方として活躍する場面がほとんどのため、むしろ主人公のライバルキャラ的な印象が強い。だが物語の最序盤での彼は、妖怪盗賊という肩書きだった。女性に毒を飲ませて身柄を返し、幽助に剣の柄の中に仕込んだ解毒剤を奪わせるなど行動は卑劣。おまけに口が悪く、「バカ野郎がマヌケは貴様だ!!」「女の運命はオレの手の中にあるのだ!!」と、中盤以降と比べると初期の飛影は雑魚的な小物感あふれる言動が目立っていたキャラでもあった。
そんな彼は、幽助の言葉や行動で“ハッ”とするシーンも多かった。そしてその後は悪者にはふさわしくないような行いをし、長年行動をともにしてきた蔵馬から指摘されることも。
幽助に負けたことで大きな心境の変化があったのか、妖力が大幅に弱くなったことで余裕がなくなっていたための性格の変化だったのか……。この性格変化は作中では説明されていないが、幽助と関わったことでガラリ性格が変わった、まさに“光に落ちた”キャラである。