■絶望の世界でも希望を捨てず戦ったブルマとトランクス
最後は、1993年放送のテレビスペシャル『ドラゴンボールZ 絶望への反抗!! 残された超戦士・悟飯とトランクス』での、ブルマとトランクス親子の名シーンを紹介したい。
このテレビスペシャルは、悟空が病で死んでしまう衝撃のシーンからはじまり、その後現れた人造人間17号、18号によって破壊がつくされる未来の世界が舞台となっている。
ピッコロやベジータら次々と戦士たちが戦いを挑み殺されていき、そのなかで生き残ったのが悟飯とブルマ、そしてトランクスだった。
そんな絶望の世界でトランクスは幼いながらに正義感にあふれ、人造人間と戦うためにブルマに内緒で悟飯に修行をつけてもらっていた。一方、それを知りながらも気づかないふりをして「あんたたち危ない遊びしちゃダメよ」と忠告するブルマは、やはり明るくたくましい母だった。
後の戦闘で悟飯も殺され、さらなる苦境に立たされることになるのだが、ブルマはそれでも諦めずにタイムマシンの開発を続け、ついには完成させるのだった。タイムマシン完成に「父さんに会えるのが楽しみだな」というトランクスに対し「あまり期待しないほうがいいかもよ」というブルマ。父であるベジータを含め3人の家族関係がわかる、非常に面白いシーンではないだろうか。
このスぺシャルアニメのラストでトランクスは過去へ出発、物語本編では薬を渡し悟空の命を救い、自身は父・ベジータと修行し、以前とは比べ物にならないくらいの強さを手に入れる。そして未来に戻ってきたトランクスは、人造人間18号、17号と次々に倒し、さらには後で現れるセルをも一人で倒していた。ブルマとトランクスの諦めない親子によって、“過去”と“未来”2つの世界が救われたのだった。
今回は『ドラゴンボール』の泣ける親子の名シーンを紹介してきた。
漫画の世界では親子の関係を素晴らしい演出や展開で描き、読者の涙腺を崩壊させるような感動的な作品がある。それとは対照的に、自身の作品に娯楽性を求める鳥山さんは『ドラゴンボール』という作品ではあえてドラマチックな演出を避け、親子の関係をあっさりと自然に描いているように感じた。
しかし、だからといって『ドラゴンボール』に“親子の愛”が存在しないというわけではない。娯楽に徹した鳥山さんらしい表現で、しっかりと描かれていたのが印象的だ。