「背中の正面」に「ジャンケン小僧」も…小林靖子脚本・実写『岸辺露伴は動かない』驚きの方法で表現されたスタンドたちの画像
ドラマ『岸辺露伴は動かない』(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社 (C)2021 NHK / P.I.C.S.

 荒木飛呂彦さんの大人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』が実写化され、ドラマ・映画ともにその完成度の高さがファンをうならせている。

 小林靖子さんが脚本を手掛けた、この『岸辺露伴』シリーズ。とくに“スタンド能力”をあえてCGを使わず表現したその手法は、実に斬新な試みとして視聴者に大きな衝撃を与えた。新たな設定をもとに描かれた、“スタンド描写”の数々を見ていこう。

■演者を“おんぶ”するというあまりにも斬新な手法「背中の正面」チープ・トリック

 ドラマ版『岸辺露伴は動かない』には、スピンオフ元である『ジョジョの奇妙な冒険』に登場したエピソードも数多く組み込まれている。なかでも、あまりにも意外な方法で“スタンド”を表現してみせたのが、ドラマ版第5話「背中の正面」だ。

 露伴宅をリゾート開発会社の営業担当者・乙雅三が訪ねてくるのだが、頑なに“背中”を見せまいとする彼に露伴は徐々に興味を惹かれていき、その背中を見てしまったことで思いもよらぬ“怪異”に苦しまされることとなる。

 乙は原作『ジョジョ』のなかでは、背中を見たものに憑りつくスタンド「チープ・トリック」の本体として登場したが、前述のとおりドラマ版ではCGなどを使わず、あまりにも意外な形でこの怪異を表現した。

 その表現方法だが、なんとドラマ版で乙を演じた俳優・市川猿之助さん自身が、露伴を演じた高橋一生さんの背中に覆いかぶさる形で再現されているのだ。

 要は、怪異が乙の姿を借りて露伴に憑りついているという具合に設定が変わっており、市川さんを終始“おんぶ”したまま物語が進行していく姿はどこかシュールでもある。

 しかし、背中に張り付いたままひきつった笑みを浮かべ、優しく、怪しく語り掛ける乙の姿は、まさに怪異そのもの。背中を見られたらアウトというルールも原作通りで、露伴は彼を引きはがすため、背中を見られないよう命がけで街を奔走することとなる。

 意表を突いたスタンドの表現方法もさることながら、さまざまな“伝説”を巧妙にミックスさせ再構築されたシナリオや、思わず原作ファンをニヤリとさせるその解決方法についても見事と言わざるをえない。 

■“辻神”が少年に与えた唯一無二の能力「ジャンケン小僧」ボーイ・ll・マン

 ドラマ版では作中に“スタンド”の概念が存在していないため、原作に登場したスタンドはなにかしらの“怪異”として描かれることが多い。ドラマ版第8話「ジャンケン小僧」も、原作の人気エピソードを“スタンド”を使わず、新たな切り口で描いた回だ。

 タイトル通り、本エピソードに登場するのは原作『ジョジョ』でも強烈なインパクトを放っていた“ジャンケン小僧”こと、スタンド使いの少年・大柳賢。原作ではスタンド「ボーイ・II・マン」の能力を駆使し、子どもでありながら露伴をあと一歩のところまで追いつめたキャラクターである。

 ドラマ版では、とある事情から露伴に恨みを抱いた少年・賢が、露伴に“じゃんけん”勝負を挑むこととなる。「じゃんけんに勝つことで相手の力を奪う」という能力自体は大きく変わってはいないが、ドラマ版では賢がこの能力を手に入れた特殊な経緯が追加されている。

 彼は道が縦横十文字に交差している「四つ辻」で転び気絶したことで、「辻神」と呼ばれる存在に憑りつかれたという設定となっていた。その結果、露伴同様に特殊能力に目覚め、私怨から彼を打ち倒そうと牙をむいたのである。

 また、賢が露伴に挑む理由も、第7話「ホットサマー・マーサ」なるエピソードにうまく関連付けられている。賢は露伴が手掛けたキャラクターのデザインが気に入らないという理由から、デザインの修正を求め、執拗に露伴に付きまとっていたのだ。

 今回も“スタンド”を街や土地に潜む見えない“なにか”と紐づけ、超常的かつ神秘的な存在としてより不気味に描いている。加えて、本来は無関係のそれぞれのエピソードが見事に関連付けされている点も、脚本の妙といえるだろう。

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