■離ればなれになった母と子…さすがにとんちでも解決できなかった『一休さん』
1975年から1982年にかけ、全296話が放送された大人気アニメ『一休さん』。安国寺を舞台に、主人公の一休がとんちを使って身の回りで起こるさまざまな問題や事件を解決していくユーモアたっぷりの作品である。しかしその一方、離ればなれになった母と子の切ない物語でもあった。
一休は、実在した人物がモデルとなっている。室町時代の僧である一休宗純、本作は彼の子ども時代の説話を元にして作られた。そして母・伊予の局(いよのつぼね)は、後小松天皇に仕える女官の一人で、寵愛を受け千菊丸(のちの一休)を授かる。しかし政治的な理由により母と子は引き離され、千菊丸は一休と名を変え坊主になり、母は小さな家で使用人・おはるとともに密やかに暮らしている。
和尚や先輩坊主、さらには新右衛門や幼なじみのさよちゃんたちとともに明るく賢く生きる一休だが、第20話「おっぱいと兄弟げんか」では、どうしても母が恋しくなり、母の元を訪ねてしまう姿が描かれている。
しかし、母・伊予の局は「あなたは父も母もない」と気丈に追い払う。その言葉に深く傷ついた一休は、嵐で吹き荒れる琵琶湖へ小舟で出て高波にさらわれてしまう。なんとか一命を取り留めるのだが、非常にシリアスな内容となっていた。
将軍や桔梗屋から出される難問や周囲の人たちのトラブルをとんちで解決し、その後もたくましく幸せに暮らす一休。しかし最終296話「母よ!友よ!安国寺よ!さようなら」では、幸せ過ぎる生活にこのままではいけないと、厳しい修行を求め旅に出ることを決意する。
それを察した和尚の計らいにより、旅に出る前に母子水入らずの時間を過ごすことを許され、そして仲間たちとの別れを惜しみながら一人旅立って行くのであった。
今回は、離ればなれになった母と子。そして、けなげに生きる主人公の姿に思わず感涙してしまった昭和アニメを紹介してきた。
「可愛い子には旅をさせよ」ということわざがあるが、いずれも主人公たちも、その意味以上に過酷な人生を送っていたのが印象的だ。そんな環境にも負けず、健気にまっすぐたくましく生き、徐々に成長していく主人公の姿には、やはり心打たれるものがあった。