1983年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で原作・武論尊氏、作画・原哲夫氏による『北斗の拳』には、主人公のケンシロウをはじめ数多くの魅力あるキャラクターが登場する。しかし意外にも人気があるのが、ケンシロウたちに倒されてしまう悪役の“名もなきザコたち”だ。
ザコの多くは私利私欲のためだけに弱いものをいじめたり、ケンシロウたちに変な言いがかりをつけたりして、最終的にはぶっ飛ばされる。しかしあらためて本作を読み直すと、意外と自分で努力しているマジメな(!?)ザコもいるのだ。ここではそんなザコたちのマジメで勤勉な素顔が垣間見えるシーンを紹介したい。
■ジャギさまから奪い取った技!「見よ俺様の北斗神拳を~!」
ザコのなかには、自分で一生懸命努力して技を習得した者もいる。それがコミックス5巻に掲載されている「幼き犠牲!! の巻」に登場するザコだ。
ケンシロウは、“胸に七つの傷を持つ男”として残虐非道な行為を繰り返す義兄のジャギを探していた。そこでジャギの部下であるザコと出会う。
「ジャギはどこだ……」と尋ねるケンシロウに対し「きさまをここで倒せば おれは あのお方の右腕になれる!!」と、喜ぶザコ。そして「みろ!! おれさまの北斗神拳を!!」と叫び、ポーズを構え、「ジャギさまからうばいとった技!! とくと味わわせてやるわーっ!!」と、戦いに挑むのだ。
多くのザコが武器を持って自己流で戦うなか、このザコはジャギの戦いを日頃から見て技を習得した努力型ともいえよう。最後はあっけなくこめかみに親指を突き立てられ、土に埋められてしまうのだが……。
荒唐無稽な挑戦にも見えるが、『北斗の拳』ではラオウの戦いから北斗神拳を習得したバランという強いキャラクターもいる。このザコももっと努力してジャギの技を習得していれば、もう少しケンシロウと対等に戦えたかもしれない!?
■最後まで記録は真面目に!?「あ…新記録」のザコ
コミックス12巻「わが星は天狼の星!の巻」に登場するザコには、ちゃっかり最後まで責務を果たした者もいる。
ラオウが領土を離れているのをいいことに、やりたい放題のザコたち。そのなかの1人、ゴンズは村人に鉄鎖をつけて振り回し、どこまで飛ばせるかという“人間ハンマー投げ”をする。
ここで登場するのが、どのくらい人が飛んだのか記録しているザコだ。遠くに人を飛ばしたゴンズに対し、「おお~〜ゴンズ様 新記録!!」と報告する記録係のザコ。
そこに「今度はオレが挑戦しよう!」と登場したケンシロウ。ケンシロウは「おまえが飛ぶんだ」とゴンズに言い、思い切り蹴り飛ばす。
「ぶべえ!!」と飛んだゴンズはビルに叩きつけられ、命を落とす。しかしドシャ…と落ちたゴンズを見て、記録係のザコは「あ…新記録……」と口にする。ケンシロウ登場というザコたちにとっては非常事態のなか、計ることを忘れていなかったのである。しかしその後、このザコは“新記録”の言葉に怒ったゴンズの兄貴分によってあっという間に殺されてしまうのだが……。
もともと記録係のザコはいかにも弱そうだった。きっとそれまでも一生懸命自分の仕事をし、強いゴンズなどに奉仕して真面目に生きてきたんじゃないだろうか。そう想像すると、なんだか哀れに思えてならない。