2024年5月に創刊50周年を迎える少女まんが雑誌『花とゆめ』(白泉社)。多くの有名作品を生み出してきた雑誌だが、なかでも代表的な作品といえば、1975年から掲載されている美内すずえ氏の『ガラスの仮面』だろう。
本作の魅力をあげたらきりがないが、人気キャラクターの1人といえば、やはり速水真澄である。彼は大手芸能事務所・大都芸能のイケメン社長であり、主人公・北島マヤに想いを寄せる男性だ。しかし長期連載において真澄の行動はとても歯がゆく、「いい大人なんだから早く気持ちを伝えてしまえばいいのに!」と思ってしまうシーンも多い。
ここではそんな少女漫画界きってのこじらせ男(!?)『ガラスの仮面』の速水真澄における戸惑いシーンを振り返りたい。
■自分の気持ちに素直になれない「おれともあろう者が…11歳も年下の少女だぞ!」
『ガラスの仮面』は、マヤと真澄がくっつきそうでくっつかない展開から目が離せない。物語後半になってやっとお互いの気持ちが分かってはきたものの、序盤はとにかくもどかしい展開が続く。その原因として真澄本人が自分の気持ちに蓋をし、何かとこじらせていることが挙げられるだろう。
真澄はマヤと出会った当初は“おチビちゃん”と呼び、経営者として演技のうまいマヤのことを魅力のある“商品”という認識で見ていた。しかしマヤの演劇にかける情熱を見続けるうちに、いつしか商品から1人の女性として捉え、恋愛対象となっていく。
自身の気持ちに気づいた真澄だが、「どうかしてるぞ速水真澄 相手は10いくつも年下の少女だぞ おれともあろう者が…!」と、しょっちゅううろたえてしまう。
プライドの高い自分が11歳も年下の少女に心奪われるなんて信じられない、といったところか。しかし好きになってしまったものは、仕方がないのだ。
それを認めてしまえばいいのに、真澄はそれでも自分の気持ちを閉じ込め続け、マヤへの想いが湧きあがるたびに「いや11歳も年下の少女だぞ…!」と、自戒する。あげくの果てにその気持ちを指摘された秘書の水城に対して、「11も年下の少女だぞ!」と逆切れし、ビンタを食らわすのであった。
これは「お前、あの子のこと好きなんだろう〜」とちゃかされた子どもが、図星の恥ずかしさから「変なこと言うと怒るぞ!」と、逆切れするのと一緒だろう。
最初からちゃんと自分の気持ちを認めていれば、婚約者が現れる前にマヤとくっついていたかもしれないのになあ……と、もどかしく思ってしまうのは筆者だけではないだろう。
■想いを伝えるのはこの方法だけ!? 好きな気持ちを紫のバラに
真澄の有名な行動といえば、マヤにひっそりと紫のバラを送ることだろう。最初のきっかけは、マヤが高熱のなか『若草物語』のベスを演じきったときのこと。その演技を見た真澄は衝撃を受け、胸を締め付けられた結果「紫のバラを送る」という行動を起こすのであった。
花屋で見つけた紫のバラをありったけ買い、マヤの楽屋にひっそり置く真澄。その際も「なんてことだ このおれが花束だと? いままでどんな女性にも花など送ったことのないこのおれが…!」と、自問自答している。
その後も、マヤの舞台があるたびに匿名で紫のバラを送り、「あなたのファンより」というメッセージを添え、ひっそり消える真澄。
ある時はマヤの楽屋に忍び込み、マヤの台本の上にひっそりと1輪のバラを置いたうえで「あなたをみています あなたのファンより」というメッセージを残している。今の時代なら少々ストーカーぽくも見えてしまうが……、ただ、そのたびにマヤが「紫のバラの人!」と大喜びしているので、まあ良しとしよう。
ちなみに紫のバラは実際いくらなのか調べたところ、現実社会では1輪で800円ほど。花束になると1万円ほどするので、しょっちゅう送る真澄はやっぱり金持ちだ。しかしやっていること自体は、好きな人の靴箱にひっそりチョコを入れる女子学生のようで、やっぱりこじらせているなあと思ってしまう。