■理論がそれっぽすぎる…『るろうに剣心』二重の極み
和月伸宏氏が描く剣客バトル漫画『るろうに剣心ー明治剣客浪漫譚ー』(集英社)の必殺技は、いかにも“それっぽい”理論で解説されることが多い。
超神速の抜刀術で真空状態を作りだす「天翔龍閃」や、刀身についた人の脂を燃やす「無限刃」などさまざまあるが、とくに“それっぽかった”のはズバリ、「二重の極み」ではないだろうか。
二重の極みは、相楽左之助が十本刀・悠久山安慈から伝授された技だ。拳を立てながら指の第2関節で相手を殴り、次の瞬間に拳を折り曲げて二撃目を叩きこむ。すると大岩をも粉々に砕く破壊力を得る、というもの。
「物質にはすべて抵抗が存在する」「一撃目の衝撃と物体の抵抗がぶつかった瞬間に二撃目を打つ」と作中で理論が丁寧に語られており、つい納得してしまうのが二重の極みの面白いところだ。
なんとなく科学らしい理屈から「実際にできるかも!」と思って二重の極みに挑戦してみた人もいるのではないだろうか。ちなみに筆者もそんな子どもの1人だったが、ただ拳を痛めて終わった。
2024年中に放送が決まっているアニメ版でもこの二重の極みが登場するはずだが、令和にも二重の極みをまねる子どもがきっと現れるだろう。
漫画内で語られる「思わず信じた作り話」はまだまだある。宮下あきら氏の『魁!!男塾』に登場する「民明書房」で取りあげられる技や雑学もそうだし、今回紹介した『刃牙』シリーズではほかにも「シンクロニシティ」という現実と食い違うエピソードが登場する。
漫画そのものがフィクションなのだから、そのなかで語られる知識の真偽はさして問題ではない。読者に信じさせるほどの説得力や迫力、ひいては面白さがあるか。それを満たした作品が名作と呼ばれるのではないだろうか。