漫画ならではの技法に「オノマトペ」がある。爆発の「ドカーン」や雨の「ザアザア」といった擬音語や擬態語の総称で、これを描くことで場面をわかりやすく説明したり、盛り上げたりすることができる。
さて、名作と呼ばれる漫画にはオノマトペが独特な作品も多い。作者の個性やセンスの見せどころともいえるだろう。そこで今回は、ほかでは見られないユニークなオノマトペが面白い漫画を紹介しよう。
■「ゴゴゴゴゴ」だけじゃない!『ジョジョの奇妙な冒険』
まずは荒木飛呂彦氏の長編バトル漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)からだ。
『ジョジョ』でとくに有名なオノマトペといえば、威圧感を表現する「ゴゴゴゴゴ」や「ドドドド」だろう。手ごわい敵が現れたとき、主人公たちの逆転がはじまるとき……緊迫する場面で地鳴りのように響く「ゴゴゴゴゴ」は迫力満点だ。
しかし『ジョジョ』のオノマトペはほかにも面白いものがたくさんある。第1部でディオ・ブランドーがエリナに無理やりキスする瞬間の「ズキュウウゥン」、波紋使いの紳士ウィル・A・ツェペリが得意技「波紋カッター」を放つ際の「パパウパウパウ」などは、日常生活ではまず耳にしない効果音だろう。
とくに「ズキュウウゥン」はすごい。男女がキスをするシーンでエレキギターをかき鳴らすようなオノマトペを入れるとは、荒木氏のセンスが際立っていると思う。
ほかにもカエルを殴る音に「メメタァ」という擬音語、キャラがいじけると「イジケー」など、本作ならではのオノマトペはまだまだある。個性的な作風が魅力の『ジョジョ』は、オノマトペひとつとっても個性のかたまりなのだ。
■聞いたことないはずなのに…『刃牙』の食事シーンは擬態語が美味しそう
板垣恵介氏が手掛ける格闘漫画『刃牙』シリーズ(秋田書店)も、オノマトペが特徴的な作品のひとつだ。もちろん、バトルシーンのオノマトペも迫力があって良いのだが、筆者が大好きなのは食事シーンの擬音である。「ご飯食べるとき、そんな音鳴るっけ?」のオンパレードなのだ。
たとえば範馬刃牙の異母兄、ジャック・ハンマーが特大ステーキを口におさめる瞬間、「ナポ…」という音が描かれていたりする。「ガブリ」とか「モグモグ」ならわかるが、「ナポ…」とはなんだろうか。
ほかにも、ラーメンをすする音が「ゾボボボボボッ」だったり、刃牙が大量の中華料理を食べる際に「メロ…」という音を鳴らしたり、とにかく聞き覚えのない咀嚼音が大盛り。
一方、「パク」「ゴクリ」といった定番のオノマトペも登場しておりとにかく、『刃牙』シリーズの食事は擬音が非常に多いのが特徴だ。
そして面白いことに『刃牙』の食事シーンを読んでいると、なぜか無性にお腹が空いてくる。「ナポ…」「メロ…」など、突拍子のない擬音のはずなのになんとなく伝わるし、やけに美味しそうなのだ。
オノマトペは作中の状況をわかりやすく伝えるためのツールに過ぎない。たとえ聞き覚えのないオノマトペでも、ご飯のすばらしさが読者に伝わるなら極上のオノマトペといえるのだ。