■士気を削がれる民たちの無惨な姿
現在、アニメでは第5シリーズが展開されている『キングダム』。ここで描かれた「黒羊丘の戦い」にも、凄惨なシーンが登場する。
総大将・慶舎を失った趙軍が丘を砦化し始めると、副将・紀彗の元に秦の総大将・桓騎から贈り物が届く。丘を駆け下りた紀彗たちが目にしたのは、四肢を切断された黒羊の人々が巨大なアーチ状に組まれた“骸の巨像”だった。
“贈り物”とともに添えられていた桓騎からの伝文には、紀彗が治める離眼城でこれ以上の惨劇を起こすという脅迫が記されており、民の命と戦の勝利を天秤にかけられてしまうのである。
結果的に紀彗がそのまま戦を放棄したことで、桓騎はすでに砦化された丘を悠々と占拠。一般人の死体を集めるために丘取り合戦から素早く身を引いたことで、自軍の犠牲も最小限に抑えるという衝撃的な方法で圧倒的な勝利を収めたのだった。
桓騎の作った“骸の巨像”はまさしく目を背けたくなるほどおぞましい“贈り物”だったが、一般人の死体に利用価値を見出されてしまうという背景も戦争の恐ろしいところである。
戦時下においては、一般人であれ誰しもが戦争の一部としてみなされる現実に、強い絶望感を感じてしまう。「黒羊丘の戦い」は、そんな戦争そのものの恐ろしさが垣間見える印象深い戦いだった。
戦いのなかで描かれる惨いシーンはさることながら、戦争そのものの恐ろしさまで痛感させられる『キングダム』。激しさを増す物語のなかで、これからも読者を絶望させるトラウマシーンが数々と描かれていくことだろう。
漫画的な描写とはいえ、過去に実際に起きた戦争だという事実を噛みしめながら読むことで、『キングダム』という作品の世界観により深く浸れるかもしれない。