『コタローは1人暮らし』に『赤ちゃんと僕』、『うさぎドロップ』にも…漫画に登場する“健気でたくましい子どもたち”の画像
『赤ちゃんと僕』第2巻 (白泉社文庫)

 漫画の主人公の多くは女子中高生や青年など、10代半ばを過ぎた年齢設定のキャラクターが多い。しかしなかには「子ども」を主人公にした作品もあり、その生き方や周りを取り巻く環境に考えさせられることもあるだろう。

 子どもをテーマにした作品では、本人が抱える切ない背景が描かれることもある。本当の親子ではない家族や、子どもが兄弟を育てるといったいわゆる“ヤングケアラー”など、過酷な環境下でも頑張っている子どももいるのだ。ここではそんな作品に登場する、健気でたくましい子どもたちを紹介したい。

■なんと4歳で自立した生活!?『コタローは1人暮らし』

 津村マミ氏による『コタローは一人暮らし』は『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて、2015年から2023年まで連載された作品である。2018年には「みんなが選ぶ!! 電子コミック大賞2018」で男性部門賞を受賞し、実写ドラマ化、アニメ化もされている人気作品だ。

 主人公・さとうコタローは「アパートの清水」に引っ越してきた4歳児。たった1人で生活をしていることを知ったアパートの住人・狩野進は、コタローが気になって仕方ない。最初はそっけない態度を取りつつも、徐々にコタローのサポートをしていく。以来、アパートのほかの住人や近所の大人たちも、自分ができるサポートをおこなっていくという物語だ。

 通常ではありえないシチュエーションだが、コタローは妙に大人びているところがあり、1人暮らしにもびっくりするほど上手く対応している。しかし大人っぽいとはいえ、ほかの子のお弁当を見てうらやましく感じたり、急にさみしくなって親切にしてくれる女性の職場に何度も足を運んだりと、子どもらしさもある。

 本作はコタローをはじめ、彼にかかわる人物のドタバタ劇が展開されていく。しんみりするシーンも多いが、それと同じくらい吹き出してしまうコミカルなシーンもあるため、とても読みやすい。

 また読み進めていくうちに、なぜコタローが1人暮らしをしているのか、両親はどこにいるのかなど、謎も徐々に解けていく。子どもにとって家族とは、大人とは何かを考えさせられる作品だ。

■弟の育児に奮闘する兄の姿に涙…『赤ちゃんと僕』

『赤ちゃんと僕』は、1991年から1997年まで『花とゆめ』(白泉社)で連載された羅川真里茂氏による作品だ。主人公の榎木拓也は小学5年生。母親を亡くし、父親・春美と一緒に2歳の弟である実を育てながら自身も成長していく物語だ。

 本作は今より30年以上前に描かれた作品であり、ジャンルは「ホームコメディ」となっている。若かりし頃の筆者も面白く読んだ記憶があるのだが、母になった現在読み返してみると、かなり過酷なヤングケアラーの実情が描かれていると感じた。

 まず物語序盤から、拓也を囲む大人たちがとても冷たい……。実が泣き出すと父親はその世話を基本的に拓也に任せてしまうし、近所の人は“実の泣き声がうるさいからなんとかしろ”とつらく当たったりする。

 拓也は宿題をしようにも実に邪魔され、同級生と遊ぶ時間もない。不慣れな針仕事に手こずりながら、拓也が実の保育園用の雑巾を縫う場面では読んでいて思わず泣きそうになってしまった。

 近年、“ヤングケアラー”という言葉とともにその実態が明かされ、現状を改善しようという動きが見えてきているが、当時は拓也のように人知れず兄弟へのケアや親の介護に奮闘していた子どもも多かったのかもしれない。

 全体的に明るいシーンも多く、拓也に寄り添ってくれる友人たちも登場するので重苦しい雰囲気はないものの、ヤングケアラーの実情や問題以外にも育児ノイローゼの主婦やいじめのトラブル、さまざまな親子関係など、考えさせられるテーマが次々に登場する。

 しかし、そんななかでも拓也と実のやり取りは温かく、羅川氏のほっこりとした絵柄がまた涙を誘う。拓也が弟の世話を通じて成長していく姿に、読んでいるこちらも勇気がもらえるだろう。

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