観る者を虜にする華やかさを持ちながら、一方で徹底的な階級社会のなかで生きることを強いられた、“花魁”たち。そんな苛烈な女の世界を生きる美女たちにフォーカスを当てた漫画作品も、数多く存在している。世知辛くもしたたかに生きていく花魁たちの世界を描いた漫画作品を見ていこう。
■繊細かつ鮮やかなタッチで描かれる“花魁”の世界観…『さくらん』
2001年より『イブニング』(講談社)で連載された安野モヨコさんの『さくらん』は、花魁たちが抱く葛藤や彼女たちの人生を描いた花魁漫画だ。
両親を失った主人公・きよ葉は口が悪く気の強い少女だったが、8歳のときに遊郭・玉菊屋に売られたことで遊女たちの世界へと足を踏み入れていく。当初は花魁になりたくないと脱走を繰り返していたきよ葉だが、周囲から挑発されたことで激昂。なにがなんでも“吉原一の花魁になる”と心に決め、女たちの戦いの世界に身を投じていく。
絢爛豪華な花魁たちの表向きの姿はもちろん、遊郭で成り上がるためにしたたかにおこなわれる下積みの数々、女同士の間に生まれる悲しい駆け引きなど、“花魁”という存在の光と闇を繊細なタッチでのびのびと描き切った作品だ。
本作はその高い人気から2007年には実写映画化されており、主人公・きよ葉役には土屋アンナさんが抜擢され、音楽監督を椎名林檎さんが務めるなど、実に豪華な顔ぶれが話題を呼んだ。
映画版は原作にオリジナルの要素を加えたストーリー展開となっており、原色をこれでもかと使った艶やかな色彩で描かれた“花魁”の世界はインパクト大。写真家としても活躍する監督・蜷川実花さんの演出が、ときに豪華に、ときに仄暗くそれぞれのシーンを彩っていく。
また、本作には原作者である安野さんと、その夫である庵野秀明さんも特別出演しているため、作品を観る際はぜひ、二人の姿を探してみてほしい。
漫画、映画ともに強烈かつ繊細なタッチで“花魁”の世界観を表現した、なんとも見応えのある一作である。
■目指すべき“花魁”はまさかの元・奉公人? 『おいらんガール』
2009年より『LaLa』(白泉社)にて連載された、響ワタルさんの『おいらんガール』は、火事で家を失い売られてしまった令嬢・椿が、姉女郎の鷹尾花魁を超えることを目標に奮闘していく花魁漫画である。
花魁の世界をベースにしつつも、少女漫画ゆえにどこかコメディタッチな作風も織り交ぜられた一作で、自身の境遇にめげることなく上を目指し奮戦していく主人公・椿の姿が、美しいタッチで描かれているのが印象的だ。
いわゆる“成り上がり”を目指すという点ではほかの花魁漫画とも似ている部分があるのだが、本作の最大の特徴は椿が目標としている姉女郎・鷹尾花魁の存在だろう。
吉原ナンバーワンの花魁として君臨する鷹尾だが、なんとその正体は男性。本名は真といい、彼は椿のかつての奉公人にして初恋の相手でもあった。
椿は元・奉公人の真に傷付けられたことをきっかけに花魁の頂点を目指していくのだが、彼女の前に立ちはだかる姉女郎の正体が復讐を誓った男性という、なんとも奇抜な設定を下地に物語が展開していくこととなる。
憎き相手に張り合っていく椿だが、一方で花魁として立ち振る舞う彼の美しい姿、そして時折見せる男性としての優しい一面に徐々に惹かれていってしまう。
予期せぬ再会を果たした二人の男女が繰り広げる型破りなラブストーリーが実に独創的で、目が離せなくなる一作である。