「切なくなった」衝撃的だった『アッパレ!戦国大合戦』
――『クレヨンしんちゃん』は特別だった、それは雨穴さんにとってどんなところが特別に見えたのでしょうか。
「製作陣が視聴者を子ども扱いしていないというか、本気で遊んでいる感じが伝わってきたからでしょうか。パロディとか少し露悪的なギャグとか。同時に、大事なことは本当に真面目に描かれているんですよね。
一般的な子ども向けアニメがオブラートに包んで表現することを、極限まで薄いオブラートで包んでいる気がします。あけすけに描きすぎると、それはそれで作り手の自己満足になっちゃうと思うんですけど『しんちゃん』は子ども向けエンタメとして成立するぎりぎりのラインまでオブラートを薄くすることを目指していて、そこにスリリングな面白さを感じていました」
――『クレヨンしんちゃん』は映画作品も、それぞれの監督が個性的なアプローチを見せている作品になっています。雨穴さんは映画作品はご覧になっていましたか?
「はい、そうですね。映画館へ見に行ったことはあまりないんですが、DVDなどで見ていました。どの作品も印象に残っているんですけど、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年公開/原恵一監督)のタイムスリップの描写は衝撃的でした。
それまでタイムスリップの描写というと、下からの光にキャラクターが照らされて、ホワンホワンホワンという感じで消えていくというようなイメージしかなかったんですけど、“あ、こうやって戻るんだ……”とすごく衝撃を受けました。タイムスリップで切なくなったのは初めてでしたね。
それから、やっぱり忘れられないのが『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(2021年公開/髙橋渉監督)です。まくら投げ→チョコビの喧嘩→風間くんの悲鳴という短いシーンの組み合わせで『しんのすけは心がエリートです』というモノローグに説得力を持たせる技に感動しました。
あと、私が専門にしているホラーのジャンルで言うと、『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996年公開/本郷みつる監督)のホラー演出は記憶に残っています。
『しんちゃん』は自分が子どもの頃に見てたアニメなので、なかなか大人になってから頻繁に見ることはなくなってしまったんですけど、あらためて見るとやっぱりすごく攻めているなと感じます。いまだに新作を見るときは、真剣に見ていますね」
■プロフィール
雨穴(うけつ)
ウェブライター、ホラー作家、YouTuber。2018年、ウェブサイト『オモコロ』にてウェブライターとしての活動を開始。2021年、小説『変な家』で作家デビューし、2022年には「変なシリーズ」第二弾である『変な絵』を発表した。同作は累計60万部を突破し、3月15日からは漫画版の配信もスタートする。YouTuberとしては、ホラー・ミステリー動画の他、自作曲を歌い踊る音楽動画も複数投稿している。
■漫画版『変な絵』
とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』……。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる!
雨穴氏の大ヒットミステリー長編が、『生徒死導』『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-side D.H&B.A.T』の相羽紀行氏によってコミカライズ。3月15日より『コミックシーモア』で独占先行配信がスタート。
◇コミックシーモア『変な絵』作品ページ
https://www.cmoa.jp/title/288534/