■「子どもたちの親を殺したのは、この俺さ」ククルス・ドアン
続いては、『機動戦士ガンダム』に登場する、孤島で生活するジオン軍の脱走兵ククルス・ドアン。彼は戦火の及びづらい孤島で、子どもたちに囲まれて過ごしているが、たまにやってくるジオン軍の追っ手などに対しては、ザクに乗って追い払っている。
よほどモビルスーツによる格闘に自信があるのか、「モビルスーツの格闘技というのを見せてやる!」という迷言もある。ドアン登場話の作画や、徒手空拳ザクの異様な強さも相まって、異色のエピソードとして長年ガンダムファンの間で語り継がれており、2022年には安彦良和監督により劇場版アニメも公開された。
そんなドアンだが、追っ手のザクと戦いながら、「子どもたちの親を殺したのは、この俺さ、俺の撃った流れ弾のためにな」「ジオンは子どもたちまで殺すように命じた……だが俺にはできなかった。俺は子どもたちを連れて逃げた」と、自身が軍を脱走するきっかけとなった出来事をカミングアウトし始める。
追っ手におびえる生活をしていたのは、実は子どもたちのため。ザクを駆り、拳でMSを撃ち抜きながら発した言葉は、子どもたちを戦争の被害者にさせまいと耐える大人の姿を感じさせるものだった。
■「スナイパーに機動力は必要ない」ダリル・ローレンツ
最後は、2015年にアニメ化もされた太田垣康男氏の漫画『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に登場するダリル・ローレンツだ。前述の二人と比べると、若手パイロットでありベテラン感はないが、それだけに勢いがある名言が多い。
宇宙空間に漂う帯電したゴミによって稲妻が閃く「サンダーボルト宙域」での戦いを描く同作で、旧ザクに搭乗する義足のスナイパーとして登場するダリル。長距離ビーム砲により連邦のモビルスーツを次々と撃ち落とし、「狙撃王」なる異名で呼ばれていた彼だが、中でも「スナイパーに機動力は必要ない、今まで通り、網にかかった獲物を仕留めるだけなんだから、こいつで十分さ」というセリフがかっこいい。
後に彼は両腕も切断し、専用の義手や義足を通して脳の思考を直接MSに伝える「リユース・P・デバイス」を採用したサイコ・ザクに乗り換える。そこではヒート・ホークをブーメランのように使うなど鬼神のごとき活躍を見せるが、旧ザク時代の、自身への腕の自信と謙虚さが入り混じったダリルもまた魅力的だった。
もはやガンダムの象徴となったザク。とはいえ、量産型であり、やられ役というポジションである。しかし、そんなザク乗りたちだからこそ、本道とは外れた、渋い名セリフを生み出すきっかけになったのかもしれない。