■『彼岸島』ユキ救出
最後は松本光司氏による『彼岸島』(講談社)でのユキを救出する場面だ。吸血鬼たちに連れ去られたユキを救出するため潜入するというものだが、緊張する場面の連続だった。
吸血鬼になったケンはたったひとりで潜入することになったが、ユキが連れて行かれた場所は、一介の吸血鬼では入ることのできない寺の中。そんな状況だったので、無理に侵入することになった。
そこには巨体の門番がいるが、もちろんケンが戦って勝てる相手ではない。それにもしユキを救出するのがバレたら、何百という吸血鬼が襲いかかってくることも目に見えている……。
そんな最悪な状況でケンは寺へと忍び込むが、そこに吸血鬼のボス・雅がいたから最悪の事態となった。読者もバレてはいけないと、息を殺しながらケンの潜入を見守っていたに違いない。
その後、ユキを救出するために寺に火をつけたことが悪手となり、ケンもユキも雅に捕まってしまった。それでも最後までユキを守り通して明のもとへ届け、最期を迎えたケンの頑張りは涙なしでは語れない。ユキのために心臓を自分で引き抜くことまでして、それでも生きていたから驚きだった……。
『彼岸島』には幾度となく緊張してしまうシーンがある。大量の吸血鬼や変異した巨大な化け物に常に取り囲まれているという、絶望しかない状況だからだ。これには読みながら、作中のキャラと同じように諦める気持ちにもなってしまう。
絶体絶命での潜入は、殺されることが前提にあり、どうやってその状況を乗り越えられるのか?というところでドキドキさせられる。強キャラがあっさり殲滅するより、こっちの展開の方が何倍も楽しめるということもあるのではないだろうか。