■嘘がバレてもヒロインがいい人すぎて…『Mr. FULLSWING』

 次は、2001年から2006年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された鈴木信也氏の野球ギャグ漫画『Mr. FULLSWING』から、主人公・猿野天国の嘘を取り上げよう。

 十二支高校1年生にして彼女いない歴15年の天国は、野球部マネージャー・鳥居凪に一目ぼれする。彼女の気を引きたい天国は、バットを持ったこともないのに「中学球界を代表する4番だった」と大嘘をつく。そして古豪として知られる十二支高校野球部の入部テストを受けることになるのだ。

 本作の面白いところは、主人公の嘘が序盤でヒロインにバレる点だ。第4話で天国は入部テストに向けて猛特訓を始めるも、彼は素人。失敗を繰り返して自暴自棄になってしまう。雨が降るグラウンドで呆然としていると、そこに凪が通りかかる。

 “地元のリトルリーグのガキの話”と偽りながら、自分は嘘つきでどうしようもない男だと凪に告白する天国。「ドシロートのくせに…甲子園なんて…」とつぶやく天国に、凪は「その子はきっと甲子園に行ける」と返し、続けてこう言うのだ。

「だって…こんなにがんばってるじゃないですか…」

 主人公の嘘をすべて察したうえで、それでも努力する姿をヒロインが励ますこのやりとりは、本作の序盤を飾る名場面といえるだろう。ハイテンションなギャグやパロディで人気を博した『Mr. FULLSWING』だが、こういった感動シーンもあるのが魅力である。

 

 現実でつく嘘はよくないが、フィクションの嘘はドラマを生み出す。「自分はすごい選手だ」というハッタリからスポーツ選手となり、努力を重ねて嘘を本当にする展開は胸が熱くなる。スポーツマンシップに反する行為も、スポーツ漫画ではいいエッセンスになりうるのだ。

 とはいえ、漫画に影響されて「実はこのスポーツ得意なんだ!」などと見栄を張るのはやめた方がいい。"嘘"はあくまで漫画の世界で楽しもう。

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