■『ONE PIECE』ギャッツ
尾田栄一郎氏による『ONE PIECE』(集英社)は、意外と無能力者が多い作品だ。中にはケタ違いの強さになっているキャラもいるが、今回は一般人キャラに注目したい。
それが「ドレスローザ編」で影の立役者と呼ぶにふさわしい働きをしたギャッツ。彼はコリーダコロシアムの司会者で、かなり偏った実況をするのが特徴的だ。そんな人間が一体何をするの?と思うかもしれないが、ドフラミンゴとルフィの最終戦では大活躍を果たしている。
ルフィがギア4の時間切れによって体力と覇気を失ったとき、ギャッツは真っ先にルフィのもとへ駆けつけ、彼を背負って逃げ回っていた。その際コロシアムの戦士たちを焚き付け、ドフラミンゴと交戦させることで時間稼ぎもしていたから、かなり優秀といえる。
ルフィはギャッツの助けのおかげもあって回復することができ、ドフラミンゴに勝利した。しかもそのときギャッツは実況をおこなっていたのだが、ドフラミンゴの糸によって腹を貫かれてかなりの重体になってしまう。
そこで止めるように説得されても「バカヤロウ……勝者も伝えねェ…実況があるか…」と最後まで実況者としての意地を貫き通したギャッツ。カッコ良すぎるだろ……。
■『炎炎ノ消防隊』秋樽桜備
最後は大久保篤氏の『炎炎ノ消防隊』(講談社)に登場する秋樽桜備。桜備は、無能力者でありながら第8特殊消防隊の大隊長になったという異例の経歴の持ち主だ。他の大隊長は皆圧倒的な力を持つ能力者であり、それによって部下も憧れを抱いたり、敬意を払って従ったりしている。
しかし、桜備は持ち前の明るい性格や仲間を大事にする精神、趣味の筋トレを活かして部下の信頼を勝ち取っていったのだ。明らかに大隊長の中でも一番劣っているのに、それを分かった上で信念を持って行動しているところもかなり好印象である。
さらに彼は、無能力者だからといって弱いというわけでもない。大隊長の中でもトップクラスの実力を持つ新門紅丸と戦うことになってしまったときには、泥臭くても必死に食らいついて対抗している。そんな真っ直ぐな桜備の姿に紅丸も心を打たれ、大隊長の器として認めざるを得なかった。
桜備は無能力者だからこそ、弱い人間の痛みが分かるのだろう。桜備が無能力者と能力者の架け橋になっているのは間違いない。
無能力キャラは、能力がないからといって卑屈になってしまうキャラばかりではない。強い意志を持って自分にできることをやろうとするキャラもいて、そんな姿に感動させられてしまう。