30周年『あたしンち』がじわじわと再ブーム! 親子愛に学校生活、主婦友達に驚きの節約術…人気のワケを考えてみたの画像
『あたしンちベスト』第8巻「日常は面白い」(朝日新聞出版)

 “タチバナ家”と聞けば、この漫画をすぐに思い浮かべる人も多いだろう。今年で誕生30周年を迎える、けらえいこ氏による漫画『あたしンち』だ。

 1994年6月より読売新聞日曜版で連載がスタートし(現在は週刊誌『AERA』(朝日新聞出版)で連載中)、2002年からテレビ朝日系列でアニメが放送された本作。30周年を迎えた現在、じわじわとさらに人気が高まっており、公式YouTubeのチャンネル登録者数は103万人超えの人気を誇る。(2024年2月時点)

 家族の日常をシンプルに描いた『あたしンち』が長年にわたって愛される秘密は何なのか、今回は考えてみたい。

■突拍子もない「母」を中心に描かれるドタバタ日常、名前がないのも魅力!?

『あたしンち』の主な登場人物は4人。大分県出身の押しの強い母、寡黙な父、その娘のちょっとドジな高校生のみかん、クールな中学生の息子ユズヒコの4人だ。タイトルからすると主人公はみかんになるが、物語は母を中心に描かれることも多い。

 たとえばコミックス第2巻 No.2。普段行き慣れていないフランス料理店での一幕が描かれているのだが、高級ワインを飲んだ母は「玄米茶の味だわよ」と言ったり、高級テリーヌの複雑な味を“魚肉ソーセージ”にたとえてみたりとハチャメチャぶりを発揮している。

 また、12巻 No.32では、落ちているゴミを足先で掴みゴミ箱に入れたり、手がふさがっていれば窓の開閉を足でピシャンとおこなう“母の足の器用さ”がユニークに描かれている。

 このように本作では母の突拍子もない行動を通して、“ちょっとお行儀が悪くても、日常でついやっちゃうよなあ”という内容を面白おかしく描き、「これ、わかる!」と、読者から共感を得ているのだ。

 また『あたしンち』は、父と母に名前がない。これについて筆者のけら氏は「私自身父母のことは“お父さん”、“お母さん”としか呼ばないので。親を名前で呼ぶと他人のようになってしまうから」という理由から、あえて名前は付けなかったことを明かしている。

 母や父の名前が気になる読者は多いようだが、この名称だからこそ、読者も自分の家族のような気持ちで作品を楽しめるのだろう。

■日常を大切にしている作品に誰もがグッとくる

『あたしンち』のストーリーは、日常生活が中心だ。そのうえで子供たちの成長なども描いており、グッとくる場面も多い。なかでも「あたしンちベスト1母じょうねつ編」に掲載されている「最後のクリスマス」は、多くの読者の共感を得たストーリーだ。

 ある年のクリスマス。みかんは友達の家へ、父は仕事の予定があったため、母はユズヒコに“今年のクリスマスケーキは2人だから小さいのでいいよね”と聞く。しかし思春期のユズヒコは「なんもしないでいい」と、そっけない。

 場面は変わり、買い物先でかわいらしいケーキを見つけた母。幼いころの我が子2人が「おかあさん ケーキは!?」とねだってきた過去を思い出し「それだけ子供たちが 大きくなったってことかな」「最後のクリスマスか……」と、さみしくつぶやくのであった。

 結局、母は昔の楽しかったクリスマスが忘れられず、かわいいケーキやシャンパンなどを購入。ユズヒコに“買っちゃったよお母さん アハハハ”と、照れてみせるオチ付きだ。

 このように『あたしンち』では日常生活ではよく起こりうる、ちょっとさみしいことや悲しいことなども読みやすく描かれている。とりわけ、少しセンチメンタルな気分にもなるエピソードは、読者の印象に残るだろう。そして、本作を幼い頃に読んだ人が親となり、その子供へと読み継がれていることも少なくないようだ。

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