コロナ禍にともない、多くの人々が“巣ごもり”と呼ばれる自宅待機を余儀なくされた時期もすでに懐かしくなりつつある。そんななか、室内でも手軽に楽しめる「手芸」が人気となり、百円ショップでの安価な材料に後押しされるかたちで小学生女子の間で編み物ブームが再燃したという。
日本では1950〜1960年代にかけても、国産の家庭用編み機(家庭機)の普及により編み物ブームが起きていた。昭和の時代のテレビドラマなどで手作りマフラーやセーターを棒針で編む女性の姿を見た覚えがある人も多いだろう。漫画でも、たとえば『ちびまる子ちゃん』で女の子たちが一心不乱に「リリアン」と呼ばれるカラフルな糸を編み込む遊びに没頭するシーンが描かれている。こうした少女たちの手芸欲を受けてか、おもちゃメーカーから良質の「編み機」玩具が次々に発売されたのだ。
今回は、そんな昭和に流行った「編み機おもちゃ」の思い出を振り返りたいと思う。
■家庭用編み機を子供用に小さくした本格派…トミー『あむあむ』
編み物の入り口といえば多くの人は「毛糸編み」だろうが、最初はヨレたり編み目が飛ぶなど悲惨な結果となってしまう。それでも、きれいな作品を完成させたい、そんな女の子たちの願いを叶えたのが、80年代にトミー(現・タカラトミー)から発売された子ども向け織り機『あむあむ』だ。
『あむあむ』はピアニカほどのサイズで、細いプラスチック筒が鍵盤のように幾つもならび、その中に糸を引っ掛けるための鍵針が内臓されていた。あとは、本体にセットした毛糸を四角いレバーに通して左右に動かすだけで、手早く簡単に平編み(横編み)が完成。ダイヤルを変えることで模様織りなどデザイン変化も楽しめたうえ、何よりきれいな編み目と出来上がりにうっとりした少女もいただろう。
実はこの編み機、前述した「家庭機」の縮小版。子ども時代を昭和で過ごした人のなかには、ブラザー製をはじめとした家庭機が活躍していた記憶があるかと思う。筆者の自宅にもオルガンほどの家庭機が置かれ、母親がレバーを左右に「ザーザー」動かしながら糸を使ってサマーセーターやベストなどを編んでいた。
つまり『あむあむ』とは、小さな手の子どもたちが母親と同じ編み物を体験できる、おもちゃであり織り機でもあったのだ。他にもタカラ(現・タカラトミー)から『あみもの教室』が発売された、旧ポピーの『マイニット』はアニメ放映されていた『魔法のプリンセス ミンキーモモ』や『おはよう!スパンク』といったキャラクターをパッケージや商品名に使用し人気を集めた。
■ハンドルをくるくる回すだけで毛糸編みが楽しめた…バンダイ『いち・ニット・さん』
次に紹介するのは、可愛いひつじのイラストが印象的だった、80年代にバンダイから発売された『いち・ニット・さん』。円状に並べられた鍵針に毛糸をセットし、本体ハンドルをクルクル回せば、直径約5センチの「輪編み(丸編み)」と幅約8センチの「平編み(横編み)」、この2通りの編み方が選べる。さらに、付属の「ポンポンメカ」を装着しハンドルを回すと、手軽に可愛いポンポンも作れた。こうした丸編みは『リリアン』編みと同様でもあり、さらに小さな子供にも簡単で扱いやすい編み機でもあったのだ。
ちなみに筆者は昭和時代に、マテル社の『ニットマジック』を持っていたが、こちらは「丸編み」しか編めないうえ作品例がさっぱりわからず、結局は細長い毛糸の筒で微妙なマフラーや小物入れを幾つも作った。
その後、『いち・ニット・さん』のシリーズ商品として『いち・ニット・さん Hi』が発売するが、こちらは『あむあむ』などと同様の平面編み(横編み)タイプ。さらに、2色の毛糸がかけられるダブルテンションのため、赤地に白のレンガ模様などさまざまなバリエーションを手軽に楽しめた。