■昭和ならではの悲劇…医療がまだ発達していない現状も垣間見える
『アタックNo.1』には“昭和の時代ならではの悲しいシーン”もよく登場する。
こずえには一ノ瀬努というボーイフレンドがいた。しかしある日努は、電車の線路内を歩く人を見つけ、その人を助けるために電車と衝突し、亡くなってしまう。今なら線路内の侵入は当時よりも難しく、緊急停止ボタンなどで対処して防げた事故かもしれない。
さらにその後、努の父は心労がたたり、風呂から上がったあと脳卒中を起こして倒れてしまう。病院に運ばれるも、医師は“意識が戻っても眠り続け、大きいいびきをかきはじめたら手の施しようがない”と宣告する。
父はその後意識を回復し、家族に対し感謝を述べ遺言を残したのち、いびきをかいて眠ってしまう。対処のしようがなく、父はそのまま家族に見守られ亡くなる……という展開だ。現代であれば、そのような症状が出てしまったとしても、もしかしたら何かしらの治療が可能かもしれない。
しかも物語の後編には、こずえが重い病気を患い入院するのだが、そこで病名を告知する医師がタバコを吸いながら説明しているシーンもある。とても考えられない光景だが、昭和40年代、喫煙者は今より断然多かったし、健康に対する知識も今に比べると少なかった。
悲しい展開を生み出したこれらの描写だが、しかしそうした時代背景も少なからずこの作品を盛り立てる要素になっていると思う。
元祖スポ根少女漫画とも呼ばれる『アタックNo.1』だが、内容は激しいバレーの練習だけではない。部員同士の衝突や友情、ときにコーチの恋愛なども登場し、実に見るものを飽きさせない展開になっている。
ちなみに主人公こずえの髪型はポニーテールにリボンといったイメージがあるが、漫画ではストーリーが進むごとに大胆にイメチェンしている。気になった人はぜひ、昭和の時代背景も読み取れる『アタックNo.1』を手に取ってほしい。