■カズキの決意と斗貴子の涙…『武装錬金』
2003年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された、和月伸宏氏の『武装錬金』は、普通の高校生だった武藤カズキが錬金術の存在を知り、凶悪なホムンクルスから人々を守るために戦う現代バトル漫画だ。本作では最終盤にカズキが月へ行く展開があるのだが、これは誰も喜ばない“悲劇”の月面旅行だった。
偶然の事故で他者の生命力を吸い取る怪物「ヴィクターIII」となってしまったカズキは、自分と同じ力を持つヴィクター・パワードの暴走を止める決戦に臨む。恋人の津村斗貴子とともに挑むも、ヴィクターの想定外のパワーに阻まれて失敗してしまう。
意を決したカズキは斗貴子を置いてヴィクターに突撃し、彼を巻き添えにしたまま怪物の力で地球を脱出、月へと向かうのだ。月なら地球に被害が及ぶことはない。たとえ自分は二度と地球へ帰れなくても、大切な人を守れる。他人のために戦うカズキだからこその決断だった。
だが、地球に残された者たちはそう簡単には割り切れない。とくに斗貴子は大粒の涙を流し、カズキを思って泣いてしまう。人類のロマンとしてポジティブに思われがちな月面旅行だが、本作では主人公の悲壮な決意と残された者たちの慟哭が入り混じる、なんとも悲しい出来事だった。
夜空に浮かぶ「月」は日本人にとっても身近な天体だ。秋の十五夜にお月見をする人は多いし、月食の日に空を見上げた経験のある人も多いだろう。
ジャンルに関係なく漫画で月に行く展開を見かけるのは、それほど月が私たちにとって魅力的な証拠といえるかもしれない。