■人ならざる美女の映し出す人間の“闇”…『おろち』谷村美月
もう1選、楳図さんの作品から。さまざまなジャンルのホラー作品を手掛けている楳図さんだが、『週刊少年サンデー』(小学館)で1969年から連載された大作『おろち』も、2008年に実写映画化されている。
全9つのストーリーからなるオムニバス作品で、不老不死でありながら念動力、精神感応といった超常的な能力を持つ少女・おろちが人間たちと触れ合うことで、人の内側に巣食う“闇”を垣間見ていく。
実写映画版ではこの9つのストーリーのうち、「姉妹」、「血」のエピソードが映像化された。実写版でも当然、話の主軸には奇怪な少女・おろちが絡んでくるわけだが、彼女を演じたのは、のちに数々の有名ドラマ、映画、アニメなどに出演することとなる女優・谷村美月さんだ。
谷村さんは12歳のときにNHK連続テレビ小説『まんてん』でデビューし、映画『カナリア』では“第20回高崎映画祭最優秀新人賞”を受賞するなど、輝かしい功績を残していく。
そんな谷村さんだが、本作で人ならざる存在・おろちを演じるにあたり、いかにして視聴者にその“異形さ”を伝えるかを考えたとのこと。思考錯誤するなかで、谷村さんは監督から受けた「まばたきをしない」という指示を徹底することで、おろちの異質さを表現していく。
ゆっくりとした歩調で、まばたき一つせずに近付いてくる谷村さんのその姿からは、美女でありながらも人ならざる部分を内包した、まさに“異形”としての凄味が伝わってくる。
谷村さんの怪演はもちろんのこと、本作では木村佳乃さん、中越典子さんといった女優陣の鬼気迫る熱演が全編を通して展開される作品となっている。谷村さんが演じるおろちを通し、人々が抱く心の“闇”をこれでもかと表現した怪作だ。
可愛さや美しさのなかに狂気やおぞましさを内包した女性キャラクターは、まさに“ホラー作品”の醍醐味といえるだろう。若き日の女優たちが熱演し表現する“恐怖”の数々を、ぜひ、その目で確かめてみてほしい。