■“ラブドール”が主人公の愛くるしくも切ないファンタジー… 『空気人形』
漫画家の業田良家さんは、1983年に『週刊ヤングマガジン』(講談社)に掲載された『ゴーダ君』でデビューを果たし、以降もストーリー性の高い四コマ作品や、政局に鋭く切りこむ作品を数多く手掛けている。
彼の作品を原作に2009年に実写映画として放映されたのが、心を持った“ラブドール”が主人公として活躍する『空気人形』だ。
突如、命を持って動き始めてしまったラブドール・のぞみと彼女にかかわる人々を通じ、“心”の在り方、人間の本質について考えさせられる一作となっている。
独特の世界観で描かれるファンタジー作品だが、本作の監督を務めたのは後に『万引き家族』、『ベイビー・ブローカー』といった数々の名作を手がけることになる是枝裕和さんだ。
実はこの『空気人形』は、原作を読んだ是枝さんが熱望したことで、映画化にこぎつけたという背景を持っている。さらに彼は韓国の映画監督であるポン・ジュノさんとの出会いをきっかけに、前々から気になっていた韓国の女優ペ・ドゥナさんを、本作の主人公・のぞみに起用することを実現したのだ。
さまざまな制作秘話がある本作だが、主演のペ・ドゥナさんは心を持った“ラブドール”という難解な役を、その卓越した演技力、表現力で見事に演じ切っている。
物語序盤の“人形”としての無機質な立ち振る舞いが、徐々に“人間”としての温かみある姿へと変化していくさまは、観る者を瞬く間に魅了してしまう。
“ラブドール”を主人公にしていながら、いかがわしさやいやらしさを通り越し、美しさまで昇華させた点に、是枝さんのストーリー構成や画作りの手腕がこれでもかと発揮された一作である。
今回紹介してきた作品の原作漫画は、どれもその独特の世界観から実写化は難しいと思われていた。しかし監督、俳優、女優たちの力が見事な化学反応をもたらし、魅力的な実写作品として生まれ変わっている。実写で描かれる強烈な世界観の数々を、ぜひその目で確かめてみてほしい。