人気を博した漫画作品は後に実写映画化されることも珍しくはないが、なかには「この作品をこのキャストで?」と目を疑ってしまうような作品も登場している。今回は、鬼才監督の手によって“まさかの映像化”を果たした、驚くべき漫画原作映画たちについて見ていこう。
■シュールな世界観と大物俳優のコラボレーション… 『ねじ式』
奇怪な作風の漫画家は数多く存在するが、中でもつげ義春さんはそのシュールな世界観で他の追随を許さない巨匠の一人である。特に『月刊漫画ガロ』(青林堂)で掲載された『ねじ式』は、彼の代表作ともいえる作品だ。
本作は、海岸で“メメクラゲ”なる生物に刺された主人公の少年が、死の恐怖と戦いながらも医者を探すという内容の短編作品。なかなか独特の設定だが、作者が見た“夢”をベースに描きあげたとだけあってどこか幻想的かつ不条理な展開が連続し、読者は知らず知らずのうちに引きずりこまれてしまう。
シュール極まりない作風から実写化は困難かと思われたが、1998年、数々のカルト的名作を残した石井輝男さんが監督としてメガホンをとり、実写映画が放映されることとなった。
映画版では主人公が青年・ツべという設定になっているのだが、なんとこれを名俳優である浅野忠信さんが演じている。原作である『ねじ式』の流れを汲みつつ、原作者の他作品である『もっきり屋の少女』、『やなぎ屋主人』といったエピソードも盛りこんだオムニバス形式となっているのも特徴だ。
原作者が得意とするシュールな世界観はそのままに、主人公を実力派俳優が演じることでどこか色気のあるかっこよさも表現することに成功している。
原作が持つ強烈な個性が、監督や役者陣の力でさらに濃厚なものに進化した、インパクト十分な一作だと思う。
■主人公役はまさかの大物!? 『ヒルコ/妖怪ハンター』
諸星大二郎さんといえば、この世の理から外れた数々の“異形”のエピソードを手がける漫画家だ。そんな彼の代表作として有名なのは、主人公の考古学者・稗田礼二郎が各地を巡り、日常にひそむ“怪異”と対峙していく『妖怪ハンター』シリーズだろう。
1974年に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で『黒い探求者』が連載されて以降、その高い人気からさまざまなエピソードが描かれていった。
この記念すべき初エピソード『黒い探求者』は1991年に『ヒルコ/妖怪ハンター』のタイトルで実写映画化されており、監督を努めたのは『鉄男』で国際的に高く評価された塚本晋也さんだ。
俳優やナレーターとしても活躍している塚本さんだが、本作はメジャーデビューのきっかけとなった作品でもある。そして気になる主人公・稗田の配役なのだが、なんとカリスマ的人気を誇る歌手・沢田研二さんが抜擢されることとなった。
ちなみに原作者の諸星さんはこれを受け、作品の中で生徒に“稗田先生って沢田研二にちょっと似てない?”と言わせるという、なんともお茶目なことをしている。
そんな本作は日本の田舎町を舞台に、原作が持つホラーな空気感をよりテンポよく描いた作品となっている。特に題名にもなっている怪異・“ヒルコ”の造形は実に不気味で、原作の持ち味を存分に表現し切った見事な実写化作品といえるだろう。